HOKUSAI : 特集
葛飾北斎「時代のせいにするな、己の“好き”を貫け!」
いまこそ見習いたい江戸の“謎多き天才”のフィロソフィー
コロナ禍のいま、我々はかつてない苦境に立たされている。「どう生きるべきか?」「何が正解なのか?」「自分の役割は?」――不安定な状況下で、己の存在意義をこれまで以上に思案している方も多いだろう。そんなときこそ、導(しるべ)となってくれる映画を紹介したい。伝説の浮世絵師・葛飾北斎の知られざる“生きざま”に迫る「HOKUSAI」(5月28日公開)だ。
本作は、あの名画群「富嶽三十六景」を生み出しながらも、そのパーソナリティが謎に包まれている北斎の半生にフォーカスを当てた、壮大な物語。辛酸をなめ続けた下積み時代や、理不尽な政府に弾圧される日々、それでも描き続けた北斎の気高い“魂”を力強く活写する。いまを生きる我々が、最も必要としている「信念」が、ここにある――。
九十年の人生で描いた作品、三万点以上
信念を貫き通した孤高の絵師の生き様が、いま初めて描かれる
作品は誰もが知っているが、作者の“素顔”は誰も知らない孤高の天才、それが葛飾北斎。「HOKUSAI」は、決して最初から天才ではなかった彼が、愚直に「好き」と向き合い続けたことで、“伝説”へと成っていく姿をエネルギッシュに描いている。他の絵師と比べてどれだけ格下だろうと、時代の逆風にさらされようと、己の感覚に正直に「好きなことで、生きていく」を貫いた北斎。時代を超越するクリエイターの矜持に、いまを生きる勇気をもらえるはずだ。本項目では、彼からキャッチできる“学び”を、5つのポイントで紹介していく。
【学び、その一】 時代のせいにするな! ただ「好き」を愚直に極めるべし
本作で描かれるのは、青年期(柳楽優弥)と晩年(田中泯)という2つの時代の北斎。どちらにも共通するのは、ひたすらに絵を描き続けたということ。生まれた時代や才能の有無、年齢に関係なく、ただただ「好きこそものの上手なれ」を突き詰めた結果、“本物”になったのだ。心を濁さず、取り組み続けること。この“真理”は、いまの時代こそ切実に響く。
【学び、その二】 才能は二の次、“継続”こそが最大の武器となる
喜多川歌麿(玉木宏)や東洲斎写楽(浦上晟周)といった同時代のライバルたちと比べて、自分自身のモチーフを見つけられず、後れを取っていた若き北斎。何度も挫折し、身を焼かれるような屈辱を味わいつつも、彼は筆を置かなかった。北斎の「継続力」こそ、彼を頂点に押し上げた原動力なのだ。努力を努力と思わない、圧倒的な「飢え」を持てるかどうかで、その後の人生が決まる。インスタントな結果ばかりを重視しがちな現代、本質に立ち返るきっかけをくれる。
【学び、その三】 ブレイクに年齢は関係なし! 探求心は年を取らない
北斎のターニングポイントとなったのは、70歳を超えて描いた「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」。当時、平均寿命が40歳と言われていた事を踏まえると、このブレイクがいかに異例だったかがわかるだろう。ただそれも、とにかく自らの画力を磨き続けたが故。まさに「継続は力なり」だ。90歳で亡くなる間際に「あと5年あれば真の絵描きになれた」と発言するなど、彼の“向上心”は全く衰えることがなかった。それは、68歳の時には「描き続けたいから」と脳卒中を自力で治すほど!
【学び、その四】 権力に屈すな! 自分の居場所は自分で勝ち取る
いまより遥かに、権力の芸術への介入が強かった時代。「風紀を守る」という大義名分のために表現を規制しようとする江戸幕府に目をつけられながらも、描くことをやめなかった北斎。現在の「表現の自由」は、彼らのような先人たちの“粘り”の結果なのだ、ということを改めて考えさせる。自分の居場所は自分で守る、というストイックな姿勢と覚悟は、政治に翻弄されるいまの私たちにとって、最高の気付け薬といえるのではないだろうか。
【学び、その五】 限界を決めたら終わり! 真の作品は、国境も時代も越える
北斎の姿を見ていると、「限界を決めるのは自分」なのだとハッとさせられる。諦めずに続けなければ、才能は花開かないし、誰かに見つけられることもない。ただ、ひとたび世に出た作品は、時代や国境を超えてどこまでも届いてゆく。北斎はLIFE誌の「この1000年で最も偉大な功績を残した100人」に選出され、その代表作のあの波は大量生産の浮世絵版画にもかかわらず、オークションでは1枚1.7億円の値がつくほど。自分の上限を決めずに研鑽を続けたことが、規格外の未来を創り上げたのだ。インターネットが普及した現代は、より拡散が容易で、多くの可能性が眠っている時代。「好き」を続ければ、あなたが「次の北斎」になれるもしれない!
【編集長レビュー】本当の“葛飾北斎”を初めて知った!
北斎ならコロナなど関係ないと黙々と描き続けるだろう
日本史の観点からみても、世界の美術史からみても、有数のパイオニアである北斎。彼の知られざる姿を描き切った本作を、映画.comの駒井編集長はどう見たのか? 初めて知る事実に驚き、その生きざまに大いに刺激を受けたと語る彼の、熱がほとばしりきったレビューをお届けする!
北斎こそが、日本のサブカルの源流を作った。日本の若者全員に見て欲しい
葛飾北斎は、間違いなく世界一有名な日本人画家ですが、貴族がクライアントだった西洋の画家とは違い、庶民に愛された実用芸術家である点が面白いですね。
この映画では、私たちがこれまで学んでこなかった「いかにして北斎が誕生し、どうやってその偉大な作品群を創作してきたのか」を目撃することになります。北斎の青年時代については資料が乏しく、この映画では現存する資料や史実、作品が生まれた年代などを繋ぎ合わせ作り上げた部分がありますが、20歳で画家デビューし、90歳まで筆を握り続けた北斎の生涯の70年分を描き切っていて大変貴重です。
有名な神奈川沖浪裏(「The Great Wave」と呼ばれ、海外でも非常に人気の高い一枚)は、北斎が脳卒中を自ら克服し、70歳を過ぎてから描いたものだということを、この映画で初めて知りました。そして、今の漫画の源になった、北斎漫画の制作過程についても。まさにこの人が、日本のサブカルの源流を作ったと言えます。日本の若者全員に見て欲しい。北斎がいなかったら、少年ジャンプが存在していなかったかも知れないわけで。北斎は実に健脚で、自らの足で遠くまで旅をし、数々の傑作をモノにしていたということもこの映画で知りました。絵の対象、被写体を捉える眼差しとセンスがとんでもなく鋭い。今の時代、北斎がSNSアカウント作ったら、インスタグラムでフォロワー1000万人とか軽く超えますよね。世界中からフォローされますからね。
俳優も豪華ですが、やはり後半の北斎を演じた田中泯が凄いですね。鬼気迫るなんてもんじゃない。北斎が憑依していると言っていいんじゃないでしょうか。ステイホームの状況が続く今、この映画を見ると、とても刺激を受けますよ。自分も絵の一枚でも描いてみようかなってなる。北斎ならば、コロナなんて関係ないよって黙々と作品を描き続けたに違いありません。