「くさい」HOKUSAI pekeさんの映画レビュー(感想・評価)
くさい
江戸時代後期、巷に蔓延する享楽的風潮を危惧した御上(おかみ)は、アーティストの表現をも厳しく制限する。
そんな、いわば慢性的「表現の不自由」時代を生き抜いた、ガッツだぜパワフル魂の画狂人、葛飾北斎の反骨人生を描く。
〈一の章〉~〈四の章〉からなる本作、前2章が青年期、後2章が老年期という構成だが、僕は〈一の章〉をいちばん面白く観た。
遊郭、花魁、禿(かむろ)などが、“陰翳礼讃”という言葉を思わせる薄暗い光の中で織りなすちょっと不気味な世界。
その妖しげな舞台に、蔦屋重三郎、歌麿、写楽ら、江戸町民文化を彩る面々が登場し、北斎を刺激する。
若き北斎は、写楽の出現によって、いっそう奮起することになるのだが、僕にはこのあたりがこの映画のクライマックスのように感じられた。
よって、そのあとはなんだか退屈であった。
全編をとおして、「大袈裟だなぁ」と思うような演出が少なくなく、セリフが物語から浮いていると感じるところもあり、そのたびに「くさいなぁ」といささか興醒めした(ただし、雨中、主人公が藍の絵具にまみれて躍動する場面は、舞踊家、田中泯の面目躍如たるものがあった)。
それから、音楽もよくなかった。
和紙の上を滑る筆の音、バレンを使って版画を刷る音、墨をすりおろす音……それらの音はとても美しく表現されていたのに。
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