「“旭日昇天”と“雲外蒼天”で泣かされるのはお約束。」みをつくし料理帖 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
“旭日昇天”と“雲外蒼天”で泣かされるのはお約束。
「みをつくし料理帖」。
角川春樹監督78歳、通算8作目の最新作。「笑う警官」(2009)から11年ぶり、前作で冗談のような目標(動員150万人)を掲げて引退宣言をしたはずのリベンジか、“今回こそ”の集大成か。
監督として比較していいかどうかは別として、クリント・イーストウッド(90歳)や、山田太一(86歳)の現役巨匠から見れば、まだまだ若い。
90年代以降は目立った活動が少ないので、もはや名前すら知らない人がいても不思議はないが、角川春樹は名プロデューサーとして、功罪ともに話題に事欠かなかった。
ビジネスとして定着した映画化原作本やノベライズの流れの礎を作った。新人をオーディション主役抜擢して主題歌をミリオンセラーさせたり、映画のライバルだったテレビの活用、大量のCM投下と企業タイアップによる前売チケット販売も先駆けだ。マイナーなSF小説やホラー・ミステリーに光を当ててくれた。これも功績である。
さて、本作の髙田郁による原作シリーズは“ハルキ文庫”の大ヒット作であり、その評価から、すでにテレビ朝日が北川景子主演でスペシャルドラマ化(2012/2014)し、さらにNHKでも黒木華主演で連続ドラマ化されている(2017/2019)。自社原作を角川春樹が映画化しなくて、誰がやる?である。
享和二年、幼馴染の“澪(みお)”と“野江(のえ)”が暮らす大坂を大洪水が襲う。それから数年後、ともに両親を亡くし、野江とも離れ離れになってしまった澪は、蕎麦処“つる家”の店主・種市(石坂浩二)に助けられ、天性の才能を見い出されて、江戸で評判の女料理人となっていた。
そんなある日、吉原・翁屋の又次(中村獅童)がつる家にやってきた。又次は、吉原で頂点を極める“あさひ太夫”のために、澪の料理を作ってほしいと依頼してきた。やがて、その“あさひ太夫”こそ、生き別れた“野江”であることが判明するが、その立場ゆえに対面することが許されない。想い出の素材や味の料理でお互いを励まし、支え合う。
意外なほどオーソドックスな演出で、いい意味で角川春樹の主張がないのがいい。原作のエピソードを整理して、2時間という尺に収めつつ、見事な感動作に仕上げている。序盤の回想シーンへの転換部分(フィルムへの個人的ノスタルジー?)だけ嫌いだが、“旭日昇天”と“雲外蒼天”で泣かされるのはお約束。
なんといっても主人公の“澪(みお)”を松本穂香にしたのは正解だ。NHK版に黒木華を使われてしまっているので、これはベストアンサーだろう。
そして“映画人生の集大成か”と思わせるくらい、角川春樹コネクションが大活躍。
音楽は松任谷正隆。主題歌「散りてなお」の作詞・作曲は松任谷由実。「時をかける少女」や「守ってあげたい」(「ねらわれた学園」)などのかつての名曲がアタマをよぎる。
種市役には石坂浩二。「犬神家の一族」をはじめとする横溝正史シリーズは東宝配給だったけれど、原作にスポットを当て、製作したのは角川春樹。ほかにも薬師丸ひろ子(お百役)はもちろん、久々に渡辺典子(お満役)を見た。どうせなら、原田知世も……と思うが、代わりに「あなたの番です」の奈緒(野江役)にいったか。
トップ花魁(おいらん)である“あさひ太夫”の身請け代4,000両。現代で4〜5億円か。江戸(東京)のNo.1レストランを経営できれば不可能ではないかも、とマジメに考えてしまった。
(2020/10/16/ユナイテッドシネマ豊洲 Screen9/シネスコ)