「うさぎに自由を!」ジョジョ・ラビット きーとろさんの映画レビュー(感想・評価)
うさぎに自由を!
もっとふざけたコメディなのかと思っていたら、結構真面目なお話でした。
音楽もよかったですし、特に美術面が素敵でした。色彩とか、特に衣装がめちゃくちゃお洒落!
ナチスに傾倒しながらも、うさぎを逃がそうとする心優しさを持つ主人公。このチグハグ感が心配で、目が離せなくなりました。私は母親ロージーのような目線で本作を観ていましたね。
ジョジョの過去は詳しくは描かれませんが、父が不在なことや、姉の死による不安や寂しさをナチスという強さのシンボルにすがることで凌ごうとしたのかな。ロージーに心配かけないように、守れるように強くなろうとしてたのかも、と色々考えさせられます。
虚勢を張って弱い自分を守ろう、見せまいとする感じ。ジョジョがエルサに出会った頃の態度がぴったりですね。ビビってるのバレバレなのがかわいかったです。
コメディとはいえブラックジョークが多く、クスッとするけど笑っていいのか困る時が多かったです。
本筋としては、ジョジョの成長物語ですね。恋や母の愛、苦しみを経ての成長、そしてついにはナチス、偽りの強さに囚われていた自らを解放する。本当の意味で外に出るのがあのラストシーンだと感じました。
一旦エルサに「ドイツが勝った」って嘘ついちゃうのは、彼女が自由になったら自分から離れて行っちゃうんじゃないかって不安になったからですかね。その後、目にする囚われたうさぎの絵が印象的でした。うさぎはエルサか、ジョジョ自身か。
うさぎは弱さの象徴だと思うのですが、序盤にうさぎを逃がしてあげようとするジョジョは、本当は最初から強い子なのだと思います。それを自分が弱いから殺せないんだ、と勘違いしちゃう。本当に強い者は弱い者のために戦える者なのに。今思うとそれを背中で教えてくれているのがロージーなのですね。ジョジョが「臆病うさぎ」と呼ばれた後、対照的に「子ライオン」と呼んだのも印象深い。
見直してみると、後に決別することになるアドルフは「うさぎは実は勇敢だ。うさぎになれ」ってジョジョに語りかけていますね。本当はライオンのジョジョに。ここからも「ナチスの下でうさぎでいることが勇敢なのだと思い込まされ、囚われているジョジョ」をあの絵で表現しているのかなと考えました。
本作はジョジョの変化や成長を目に見えるように描写するのが上手いなあと思いました。最初は仲良しだったアドルフと険悪になっていく、とか。靴紐が結べるようになるとか。
蝶がお腹の中で羽ばたくシーンもよかったです。ファンシーでかわいい表現。
登場人物みんな魅力的なのですが、特に好きだったのはキャプテンKですね。ああ見えて軍服には過去の戦果の勲章がたくさん付いてるみたいです。ナイスすぎる設定…好き。みなさんのレビューを拝見しても、好きっておっしゃってる方が多くてニコニコしちゃいました。
サムロックウェル、いいですよね。『スリー・ビルボード』を観てからファンです。ディクソン巡査とキャプテンK、少し似てるかも。
家宅捜索の時と最後にジョジョを逃がすところは心打たれましたね…。ロージーを「いい人だった」と言っているところ、ロージーの反戦活動も知っていて黙っていたのかなと思いました。それがバレたら自分も粛清されるだろうに。軍に従事しながらも、彼にも思うところがあったのだろうと考えさせられます。同性愛者っぽい描写もありましたし、迫害される側の気持ちも理解していたのかも。
あのクソほど標的にされそうな軍服を本当に着てくるのも最高でした!あそこが一番笑ったかもしれません。その後で戦場の恐ろしさを目の当たりにする演出がなされるギャップも素晴らしい。
スカーレットヨハンソンのパパの演技がとても素敵でした。まず声の変化が凄い。格好いい。お酒煽ってのバッと動いて音楽かける一連の動作が好きすぎました。
ロージーといえば、足元だけを意図的に映してる場面がありましたよね。まさか…と思っていたら、唐突にあのシーンですよ。頭のどこかで嫌な予感がしつつ、実際にそうなるととても辛かったです。
ヨーキーもとても好きでした。本作の癒し。最初は「ユダヤ人を捕まえた」なんて友達とはいえ、簡単に明かしちゃっていいの!?と思いましたが、なんの心配もなかったですね。ナチスかどうかなんて関係なく、人としてジョジョと親友なんだな、と会話を通して感じられて微笑ましい。そんないい子が戦場に出されているのがまた悲しいのですが。
あと最高だったのは、緊迫感マックスな家宅捜索シーンで、突如ひどい仕打ちを受けるネイサン。彼が一体何をしたというのか。殺害手段が豊富すぎる。笑っちゃいけないシーンでこれを出してくるのがまたいいんですよね。
エルサって聡明に見えますけど、意外とジョジョの嘘の手紙を信じていたのでしょうか。それともおふざけで描いたのか。ネイサンが亡くなったのはロージーから聞いたのだと思いますが。
ぐだぐだと長くなってしまいましたが、書き出してみて改めて、人物描写と心理や成長の表現が秀逸な作品だと思いました。
ストーリー展開は予想通りなところはありますが、ナチスという重いテーマを軽やかに見せているのが見事。
しかし、個人的にはハマりきれなかったです。幼いジョジョに感情移入しきれなかったのか。コメディタッチなのもあり、どこか客観的に観てしまったかもしれません。
あとは私がブラックジョークに不慣れなので、笑えばいいのか真面目にみるかどっちつかずになったり、引いてしまったり。作品に入り込めなかった部分があったかと思います。もう一度観るとまた変わってくるかも。
合わない人もいるかと思いますが、良い作品なのは間違いないです!