「独裁者の呪縛から解放され愛を知り成長する少年の初恋物語とナチスドイツを風刺したコメディが合体したユニークな映画」ジョジョ・ラビット Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
独裁者の呪縛から解放され愛を知り成長する少年の初恋物語とナチスドイツを風刺したコメディが合体したユニークな映画
ナチスドイツ国家の青少年組織ヒトラーユーゲント最年少の10歳の少年ヨハネス・”ジョジョ”・ベッツラーのヒトラーへの忠誠心を風刺したコメディ。その背景に、母ロージーが屋根裏部屋に匿ったユダヤ少女エルサ・コールに抱く主人公ジョジョの淡い初恋を物語にした異色のアメリカ映画。これをポリネシア系ユダヤ人を自称するニュージーランド人監督タイカ・ワイティティの適度にシリアスでおちゃらけた演出が、軽妙に纏める。コメディアン出身の多彩な経歴に裏打ちされた才能と個性的風貌でヒトラーをカルカチュアした演技も独創性豊かだ。
それでも、うさぎも殺せない臆病な少年がナチス教化の呪縛から解放され、愛を知り成長する姿を過酷な6ヶ月の短期間に描き込んだ内容の濃い戦争悲劇の哀しみは余り残らない。また、サマーキャンプの様な課外訓練から戦局が悪化して国民突撃隊に併合されて市街戦に巻き込まれる展開も、戦争の悲惨さを前面には打ち出してはいない。独裁者ヒトラーによってドイツ国民が一種の集団ヒステリーに陥った怖さを、ドイツ少年団ユングフォルクの教官たちに象徴化した単調さがインパクト強く、映画として色んなものを内包したごちゃ混ぜの可笑しさが最後に残る。とても良い題材だけれど、コメディの定石であるイカれたクレンツェンドルフ大尉の曖昧な立場と超肥満体の女性教官、そしてジョジョのただ一人の親友ヨーキーの強烈なキャラクターがテーマを弱めていると見た。コメディ映画に合わない題材とテーマに敢えて挑戦したコンセプトの独自性は評価すべきだろう。ただ、シリアスなタッチの中にユーモアを醸し出す作品スタイルのほうがもっと映画的感動を創作できたのではないかと思ってしまった。
俳優では、エルサを演じたトーマシン・マッケンジーの何処か儚げな佇まいがいい。ひとり取り残された淋しさが丁寧に表現されている。ジョジョに与えるロージーの母性愛と父親代わりを兼ねる戦時下の母親像を巧みに表現したスカーレット・ヨハンソンもいい。その上で、娘を亡くしたロージーが危険を承知でエルサを屋根裏部屋に避難させる動機の描写があれば、もっとヨハンソンの演技が深くなったと惜しまれる。ジョジョを熱演したローマン・グリフィン・デイヴィスは、勿論役を全うして素晴らしいし、恋に落ちた男が嘘をつく難しい場面を乗り切っていて感心する。映画らしい表現で特に指摘したいところは、母の前で呆然と跪くジョジョの悲しみを静かに見詰める小窓がある屋根のカットのモンタージュと、母の死を説明しないで描き通したジョジョとエルサの悲しみが寄り添う場面の脚本の上手さ。観る者の想像力を掻き立てる、この二点は一寸唸るくらい感動した。
少年兵が主人公で連想する映画に、西ドイツ映画のベルンハルト・ヴィッキ監督の「橋」と日本の今井正監督の「海軍特別年少兵」がある。追い詰められた戦局で若者が犠牲になる歴史の事実を忘れてはいけない。そのことを改めて指摘してくれた意義のある映画だ。それとは別に、独裁者ヒトラーひとり悪者にして戦争批判する映画のスタイルには全面的に賛同しない。それよりもこれからは、独裁者を崇拝する集団ヒステリーに潜む人間の弱さや悪をもっと解明すべき時代ではないかと、個人的に考えるからである。