「差別と冤罪」オフィサー・アンド・スパイ レントさんの映画レビュー(感想・評価)
差別と冤罪
19世紀フランスで起きた冤罪事件ドレフュス事件をユダヤ人のロマン・ポランスキーが描いた力作。
フランス陸軍将校ドレフュスは身に覚えのないスパイ容疑をかけられる。その裁判は軍法会議で非公開で行われ、彼の有罪を立証するはずの証拠資料はずさん極まりなく、中には明らかな偽造証拠まで含まれていた。
いったいなぜこうも裁判で彼がたやすく有罪とされてしまったのか。それは彼がユダヤ人であり、当時欧州での根深いユダヤ人差別が反映されてのことだった。現に彼の無実を信じて戦ったピカールでさえ反ユダヤ主義だったくらいだ。
有罪となったドレフュスが投獄された後、防諜機関に配属になったピカールは真犯人はドレフュスでないことに気づくが、軍上層部は軍のメンツにこだわりいっこうにとりあってくれず、逆にピカールを情報漏洩の罪で告発する。
ピンチに立たされたピカールだったが支援者の力を経てドレフュス事件再審へとつなげる。
そして裁判の行方は反ユダヤ主義、軍部への不信と国全体を巻き込んだ大事にまで発展してゆく。その様は実に見ごたえがあった。
当時、欧州でのユダヤ人差別の根深さが背景にあるものの、冤罪が起きるシステムはどの時代、どの国でも同じだ。先入観、偏見が必ず出発点となっている。そしてその偏見からやがて証拠捏造という不正にまで発展し、冤罪が生まれる。
日本で起きた冤罪事件狭山事件は容疑者が部落出身者であり、はなから捜査機関は容疑者を犯人ときめつけた。捜査当時発見されなかった証拠が後から発見されるという不自然さからでっちあげが大いに疑われた。そして同時期に起きた袴田事件も証拠が後から出てきたことで、裁判所は証拠捏造の疑いが強いと断罪した。
驚くのはドレフュス事件は19世紀に起きた事件。しかし袴田、狭山事件は20世紀の日本で起きたということだ。そしてこの期に及んで検察は袴田事件の再審で有罪立証すると述べている。
そもそも被告人側が検察側が握っている無実を証明する証拠の開示を請求できる制度は日本にはない。すなわち被告人が無実を証明しようにもその証拠を検察が握っている限り無実の立証は困難なのだ。だからこそいまの日本では冤罪事件が絶えない。
戦後、袴田事件のような死刑判決まで出た冤罪事件は発覚しただけでも5件に及ぶ。冤罪と疑いがあるままに死刑執行された事件もある。
このような冤罪事件はけして他人事ではないだけにこの国で裁判にかけられるのだけは避けたいものだ。