劇場公開日 2020年10月9日

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「いくらなんでもこの内容で3時間弱は長い」異端の鳥 しーぷまんさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5いくらなんでもこの内容で3時間弱は長い

2020年11月8日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

単純

寝られる

原作未読です。
とりあえず言えるのは「この内容で169分の上映時間は退屈に感じてしまう人が多いだろうなぁ」です。
※以下、長文&ネタバレになるのでご注意下さい。

もちろん、この作品と同じかそれ以上に長い作品もありますし、それらの中には作品として評価される、興業としても成功している(もしくはその両方の)映画もあるでしょう。
例としてはロードオブザリングなどでしょうか?

しかし、この映画は「長いなりの退屈させない魅せ方(あくまで映画がエンターテイメントであるという観点)」が少なく、それがこの映画の高いクオリティの足を引っ張ってしまっているように感じました。

基本的には、
第二次大戦下の(おそらくソ連付近のヨーロッパと思しき)架空の国で、疎開した少年がとある出来事から行き場を失う

行く先々で迫害やイジメと言った「悪意ある行いや犯罪」に触れる事で苦しみながら、やがてその悪意や悪意に対する戦い方を少年がその身に宿していく

最終的には少年が物語の冒頭から求めていた望みがついに叶い、自分のアイデンティティを取り戻した事を示して物語は幕を閉じる

という流れになっています。
ですがこの3つの流れのうち二つ目がとにかく長い。
いくつか重要な出来事があるにはありますが、それ以外にも似たような事が起きたり、似たような悪意が示されたりと、
「もっと削れるんじゃない?」と思う所が結構ありました。

悪意の正体や理由も似たり寄ったりです。(殆どDVやレイプ、人種差別など。その理由も嫉妬や性欲、閉鎖的な風土からくる排他主義的思想です)

どれも一つ一つは重厚に、そして人間の内部を時にリアルに、時にコミカルに、時にショッキングに描いていて、それ自体は「凄いなぁ」と思いました。
ですがこの物語は「少年が出会った主要人物」を小見出しとして、殆どオムニバス形式で進んでいくので、繋がりが薄い。

きっと原作を読んだ人からすれば「いや、この物語にはそれぞれ意味があるんだ」とか、「原作よりも整理されている」という感想は出るんでしょう。
しかしそれは「原作ありきの話」であって、この映画から触れる人が面白くないと感じるならそれは「小説の映画化」としては成功なんでしょうか?
あるいは原作ありきの話であるなら「面白いから原作を読んでみよう」と思わせられないのはどうなの?と思いますし、「これでも原作より改善されている」なら原作読む気になるでしょうか?

とはいえ私も不勉強ながら原作がどういうものであるか、(さすがに鑑賞から2日と経っていませんので原作読破は出来ませんでしたが)少しだけ調べてきました。
そして分かったのは「少年が見た光景、感じた事をモノローグとして説明している」という構図があったという事です。
この物語は登場人物がほとんど喋りませんので、それを表情や行動だけで見せていて言葉での説明を大幅に省いていました。それらは素晴らしいなぁと思いました(名優揃えただけの事はちゃんとあると思います)。

しかし、主人公の少年に無名の俳優さん(というか演技経験ゼロ)を起用したのは良いとして、もっと演出や声に頼らない身振り手振りをさせて彼の心情に厚みを持たせるべきだったなぁとも思いました。

特に失語症になるシーンと終盤で収容所で規律を乱したり露天商に報復するシーン。
「分からなくもないけど非常に分かりづらい」です。
特に失語症のシーンはもっとハッキリと「祈りの言葉を唱えられなくなる」「神にすら見捨てられたのか…」という絶望が分かるようにしないと悲劇としてのエモーションが高まっていかないでしょう。
(単に肥溜めに落とされて這い上がって息切らしてるようにしか見えません)

散々「途中退席者多数」とまるでショッキングな描写があると推されてますが、グロかったりショッキングなのは序盤のカラスと目玉をスプーンでくり抜かれた人の目玉とその末路(あとはせいぜい中盤最後のヤギの生首を窓から投げ入れるシーン)くらいで、グロさやショッキングな出来事は殆どありません。
どちらかというと精神的に辛い場面くらいで、その後グロい演出が入りそうかなぁと思うと引き目で撮ったり見切れさせたりして、ちょっとリアルなスプラッター映画よりは見せてくれません。

ただし、映画を通して「靴磨き」というキーワードがこの映画のアクセントになっていたり、原題「painted bird」というワードの意味を残酷にも少年が知るシーンなど、「凄えなぁ」って思うシーンは少年の演出場面にも多々ありましたし、脇を固める俳優さん達も繰り返しになりますが素晴らしかったと思います。
問題はシーンの繋がりとそこで盛り上げる、盛り下げるのメリハリがもっと欲しかったという事でしょうか?

なのでもっと削るか、シーンの意味を(これ以上は相当難しいですが)こちらに納得させる理由を劇中内で示してくれれば、もっと良かったとは思いますが……
とりあえず「途中退席者ガー」云々は気にしなくていいです。
長過ぎてトイレ行きたくなるくらいでしょう。

しーぷまん