「人の異質物を排除するエゴと欲と業を歴々と見せつけてくる作品です。」異端の鳥 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
人の異質物を排除するエゴと欲と業を歴々と見せつけてくる作品です。
以前から気になっていた作品で公開前から期待していて、公開2日目に観賞しました。
都内では有楽町の「TOHOシネマズ シャンテ」と立川のみの上映で、加えて上映時間が長いので観賞タイミングがなかなか合わせ難いのですが、チケットを予約しようと思った時にはかなりの席が埋まっていて、結果的には満席。
TOHOシネマズも作品によっては全席開放になってますが、こちらも全席開放で満席は凄い。場内の席が人で埋まりまくったのを見るのは久々で、まだまだコロナの影響が懸念される中で、ちょっと怖い感じがしなくも無いですが、決して大作系ではない作品が満席になっているのはちょっと嬉しかったりしますね♪
で、感想はと言うと、いや〜キツイ。キツイっすわ〜。
169分がそんなに長くは感じなく、見応えは十分にあるのですが、内容は中盤ぐらいまではかなりキツイです。
様々な描写がエグい。ここまで描かなくてはいけないのか?と思うぐらいにショッキングなシーンがてんこ盛り。
でも、なんか目が離せないと言うか、怖い物見たさの様な人を引き付ける魅力がある作品。
この世界観が癖になると言うか、ダークな世界観が好きな人で「ダンサー・イン・ザ・ダーク」や「ミスト」とかが好きな人には好きかとw
ポスタービジュアルにある首から上を残して埋められて、カラスと共に写っているのなんて「昔のフグの毒抜きか?」と最初は茶化した感じの気持ちだったんですが、いざ観賞すると、その場面になる事の理不尽な暴力に口アングリ。
前半は直接的な暴力による迫害。中盤からは性的迫害。後半は少年の自立心と言うか自我の覚醒的な目覚めな感じになってきますが、大人でも目を背けたくなる描写の連続にこれはR 15でもどうなんでしょうか?
自分が10代の頃に観賞してたらトラウマになりますわw
主人公の少年が疎開先の叔母が病死した事で旅に出るお話ですが、行く先々での迫害がキツく生々しい。人のエゴと欲と業を歴々と突きつけてくる。
エグいシーンの連続に少年の中での何かが剥がれ落ちるかの様な行動もある意味怖い。
これを成長と言うのか、人しての良心が欠け落ちたのかはそれぞれの解釈が有るかと思いますが、自分の中では成長したとは言い難い感じ。
主人公の少年役の男の子が上手い。寡黙に淡々と自身に降りかかる災難を受け入れつつも心のナイフを徐々に研ぎ澄ませていく。
でも、暴力描写よりも性的描写を監督が未成年の男の子にどう説明して撮影に挑んだかは気になります。
またモノクロの描写は何処か芸術的ではありますが、畏敬の念を感じさせる様な感じで、それでいてセリフも少なく音楽も少ないのが却ってモノクロの美しさを際立たせる感じ。
モノクロの映像の奥に広がる世界観に想像を掻き立てられるんですよね。
この作品で使われている言語は舞台となる国や場所を特定されないよう「インタースラーヴィク」という人工言語が使われていると言うのが興味深い。
様々な意図があっての人工言語が使われているんですが、この辺りがなんか厨二病的で、こう言う味付けは興味をそそるんですよねw
各章でそれぞれの地での出来事が語られますが、最初から全開で飛ばしてくるw
疎開地で虐められる少年のペットのフェレットがいきなり焼き殺されるシーンはこちらの理解の準備が出来てない状態からいきなりカマしてくる。
もう頭をいきなりぶん殴られた様なショックで理解が追いつかない。
そこに叔母が放った一言が「一人で歩いている方が悪い」。それだけで東欧でのユダヤ人の現状を表してます。
叔母が病死し、家が全焼した事で生きる為の流浪の旅に出る少年が出会う先での人々も一味も二味も変わった人物ばかり。
もういろんな意味で磁場が狂っている様な様は何が常識で何が非常識かが判断し難い様な感覚に陥ります。
少年を悪魔の使いとする村人と悪魔払いの老婆。
自分の女房と使用人に敵意と疑心暗鬼の目を向ける老主。
鳥売りの男と淫女。
司教から少年を引き取るがその実は少年を慰みモノとする男。
少年に留まる事を許すが、少年を性の対象とする淫女。
一時的に少年を保護し、一人の男として扱う軍人。
少年を万引き犯と決めつける中年男性。
助けられた軍人の辺りから少年の心境が変わってきますが、明らかにターニングポイントとなるのは少年を慰めモノにする男と女の章。
性に纏わるエピソードが少年の心境にきっかけを与え、トラウマたる傷跡を残す辺りが生々しい。
この映画は暴力を様々に見せつけながら、精神的な揺さぶりをかけてくるから、タチが悪いw
でも、いろんな人が全て正常ではなく、様々な情勢の中でエゴを剥き出す様は人間らしいと言えば人間らしく、気になって目が離せないんですよね。
それを映像美で成り立たせてくるから、観た後も余韻に浸れるんですよね。
ラストは…どうなんだろうか。ハッピーエンドと言えばハッピーエンドなんだけど、ラストに至るまでの怒涛の構成に比べると個人的には割と無難な着地点に感じます。
かと言って、バッドエンドを望んでいる訳ではないんだけど、ちょっと無難かな。
「発禁の書」「途中退場者が続出」と刺激的な煽り文句が並べられていますが、そう言った言葉に負けないだけのパワーはある作品かと思いますが、ただ、結構エグいので覚悟は必要かなw
でも興味と刺激を掻き立てられる作品で、モノクロの映像の美しさに目が奪われる、結構お勧めなダークパワーな作品ですw