「「人生そのものには意味なんてない」という真理を、徹底して突きつけられる」異端の鳥 h.h.atsuさんの映画レビュー(感想・評価)
「人生そのものには意味なんてない」という真理を、徹底して突きつけられる
私たちが目をつぶってきた人間社会の不条理な世界を、嫌というほど見せつけられる作品。
作品の最後で少年は父親との再会を果たすものの、その再会がそれまで少年が経験してきた悲惨な状況を打ち消してくれるはずもない。父親の腕の刻印からも、彼も少年と同様に過酷な日々を過ごしてきたことが伺いしれる。
その後の少年の心に平穏な日々が訪れることはくるのだろうか。
これは70数年前に起きた東欧での惨状を、今の時代に伝えるためだけの映画ではない。
近い将来ネオリベラリズムの経済体制が実質破綻を迎え、社会の分断がいっそう深刻化していく日本や米国のディストピアな未来を描いているような気がしてならない。
目の前の日々の生活に精一杯のなかでは、「道徳」や「正義」など何の意味も価値もなくなってしまう。
底辺に生きる人びとは、自分たちよりもマイノリティの人々を容赦なく叩き潰す。まるで今のネトウヨのように。
サルトルは「人間は自由の刑に処せられている」と言っていたらしいが、「これから好きなように生きていけ」と放り出されてしまった少年の姿をも言っているかのよう。
第二次世界大戦の惨事から、西欧の人びとが信じてきた神が自分たちの人生に何の意味も与えてくれないと気づいてしまった。そのことから実存主義の思想が生まれたことは、ある意味で必然的だったはず。
「生まれてきたこと自体には何の意味も持たない。その人生に意味を与えるのは自分自身しかいない。」
今だからこそ観るべき作品であるが、もうしばらくは観たくない作品。
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