「【ある夫婦の”関係性”の変遷を、コミカル要素とシニカル要素を絶妙に絡めながら描くヒューマン”夫婦”ドラマ。】」マリッジ・ストーリー NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【ある夫婦の”関係性”の変遷を、コミカル要素とシニカル要素を絶妙に絡めながら描くヒューマン”夫婦”ドラマ。】
冒頭、ニコール(スカーレット・ヨハンソン)とチャーリー(アダム・ドライバー)の夫婦がお互いの長所をモノローグで語りながらその数々のシーンが映し出される。
例えば、ニコールは夫の事を
・映画を観ると涙を流す
・家事全般が得意
なので、料理、繕いモノもし、アイロンも自分でかける
・私が怒っても、感情的にならず対処してくれるので、有難い。
・滅多に自分の信念を曲げない
・負けず嫌い
といった感じで、語る。
(この、二人の相手の長所を述べるモノローグとその場面を見るだけで、二人が善良な人間だという事を仄めかしている・・。)
が、次の場面では仲裁人の男性の前で不愉快な顔で椅子に座る二人。
ニコールは仲裁人からの”お互いの長所を語り合って・・”という言葉にも不愉快そうに”嫌だ、二人でシャブリあってな!”と捨て台詞を吐き、立ち去る・・。
前半は、二人の関係性が、チャーリーの浮気やニコールの映画女優としての人気に陰りが出始め、逆にチャーリーの演劇作家としての実力が認められてきたパワーバランスの変化もあり、徐々にギクシャクしてきた背景が随所で描かれる。
当初、二人は協議離婚を考えていたが、ニコールがノーラ(ローラ・ダーン:実に上手い・・。)という遣り手の弁護士を雇ってから、二人だけの問題が息子ヘンリーを始め、周囲を巻き込んだものになっていく・・。
現代訴訟社会への皮肉もしっかり盛り込みながら、物語は進む。
(ノーラと対抗すべくチャーリーが比較的温和な弁護士(アラン・アルダ)から攻撃的な弁護士(レイ・リオッタ)に変える場面や、
ノーラの自らの弁護士の価値を高めるために、有利な結果を少しでも残そうとする姿勢(親権の割合に拘る場面)など)
<今作の印象的な場面>
・近年、ハリウッド大作への出演が続くアダム・ドライバーとスカーレット・ヨハンソンの、数々の長台詞も含めた迫真の演技がアップで長時間観れるところである。
矢張り二人は素晴らしい役者である事を再認識した。
最初は感情を抑制しているが、徐々に能弁になり、感情の昂ぶりを爆発させるアダム・ドライバーは滅多に観れないし、更に歌まで歌ってくれる。(良い声である・・)。
又、スカーレット・ヨハンソンの複雑な感情を吐露する場面での台詞回しや感情の機微を多彩に変化させて魅せる表情など、”うわあ、矢張り、こんなに素敵な女優さんだったのだ”とちょっと驚く。
・深刻なテーマでありながら、ニコールの母、姉をコミカルなキャラクターとして登場させることで、内容に笑いを盛り込んで居るところも良い。
・又、離婚訴訟中であるにもかかわらず、昼食のメニューを渡されて決めきれないチャーリーのメニュー(ドレッシング内容まで指定:夫の嗜好をしっかり把握しているのだ)をサッと決めるニコールの自然な姿。
・今作の私が思う白眉のシーンは
チャーリーが冒頭用意した妻ニコールの長所を綴った文を、息子ヘンリーがたどたどしく読むのを手伝ううちに一人で読み始め、”ある文章:彼と会って2秒で・・・”を読んだ際に涙で声が詰まる姿と、それを扉の向こうから聞いていたニコールのフォーカスされない姿だろう。
(彼女の表情をどう見るかは観る側に委ねられる・・。)
この場面で涙を抑えるのはかなり難しい。
又、冒頭のモノローグ場面をそのように繋いだか!と思った、ノア・バームバック監督が自ら書き下ろした脚本の熟練の技にも舌を巻く。
<ニコール(スカーレット・ヨハンソン)とチャーリー(アダム・ドライバー)の夫婦が協議離婚をして、チャーリーが望んだ”友達”の関係に戻るのか、夫婦関係が修復されるのかまでは描かれていない。
が、ニコールのチャーリーに対するラストのシーン:息子を抱いて歩き出そうとするチャーリーの足元に屈んで、慣れた手付きで靴紐を結ぶシーンなどを観ていると、二人の関係性が良い方向に少しづつでも修復できればなあ、と願ってしまった。
実に、心に沁み入る作品である。>
<深く愛し合って夫婦になった男女が別れるのは、相当難しいことなのだと(離婚率が高まる現代社会ではあるが)、私は思いたい。>
<2019年12月3日 劇場にて鑑賞>
<2020年2月16日 勤務先の近くの歴史あるミニシアターで再鑑賞:1部、レビュー追記>