劇場公開日 2020年7月31日

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「大林宣彦のハッピーエンド」海辺の映画館 キネマの玉手箱 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0大林宣彦のハッピーエンド

2020年9月21日
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鑑賞方法:映画館

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今年は異常なくらい著名人の死去が相次いだ。
遂に旅立ってしまった大御所、ショッキングな若い才能の自殺、許し難いコロナで不条理にも奪われた死…。
中でも残念だったのは、大林宣彦監督の死去。
ご存知のように大林監督は、2016年から癌に侵され、余命宣告まで受けた。が、抗がん剤で闘病しながら映画を撮り続けた。
どれほど苦しかっただろう。苦しくも、映画を撮り続ける事が我が人生、生きる糧。
2017年の『花筐/HANAGATAMI』を遺作のつもりで撮ったらしいが、奇跡のように病状は一時回復し、余命宣告は撤回。すると、この生粋の映画少年はまた欲が出て、もう一本。
製作前、再び余命宣告。1年。
NHKかBSで、本作撮影中の大林監督の姿を追ったドキュメンタリー番組を見た。身体は痩せ細り、誰かに支えて貰わなければ歩けず、車椅子で演出も。今度は覚悟しなければならない。
本作は若いスタッフ/キャストが多く、意志疎通がなかなか上手く行かず、普段穏やかな監督も苛々が募り苦労したというが、完成させた。
…そして、作品の公開を見送る事無く遂に力尽き、旅立ってしまった。
コロナで7月に延期となったが、当初の公開日は4月10日。
大林監督が亡くなったのも4月10日。
何なんだろう、これは。偶然か、それとも数奇な何かか。

元々大林監督の作品が好き。遺作で、死去した日と当初の公開日が同じ…。
そんな事もあり、本作がとにかく見たくて見たくて堪らなかった。
いつもながら地元の映画館では上映しないので、隣町の映画館のスケジュールをチェックし続け、遂に本作のタイトルを発見!
焦らされ待ち続け、楽しみでありつつ、身を引き締める思いで、鑑賞の時を。
思えば、大林監督の作品を劇場で観るのは1993年の『水の旅人 侍KIDS』以来。それだけで感無量。
スクリーンに広がった大林ワールドは、唯一無二。もうとにかく、スゴかった!…の一言に尽きた。

製作会社や提供マークから遊び心たっぷり。
話は…
尾道の海辺に面する閉館が決まった昔ながらの映画館“瀬戸内キネマ”。戦争映画のオールナイト上映に、多くの客が集う。その中の3人の若者、毬男、鳳介、茂は、突如の稲光と共に、映画の中へ…。
…という、映画愛に満ちたノスタルジックなファンタジーかと思いきや、
ハテナマークが百個浮かぶSFで始まり、
本筋が始まると、映画の中の世界故、ミュージカル、チャンバラ、任侠、アクション、ドタバタ・コメディ/ブラック・コメディ、怪談、悲恋ストーリー…と、様々なジャンルをミックス。
フィクションとノンフィクション、日本の近代史、実在の人物、名作映画の逸話、さらには自身の故郷・尾道や幼き頃のノスタルジーも織り混ぜ。果ては宇宙、未来まで!
それらを、サイレントやトーキー、活弁風のナレーション、近年の大林監督の作風である多くの登場人物が交錯する喋り続ける会話劇、延々と流れ続ける音楽、矢継ぎ早のカット、絵画のようでもあり独特な映像、わざと粗いCGや合成などで、有無を言わさず流れるように見せきる。奇想天外な大林演出は病に侵されてもすこぶる絶好調!
だから本作は、傑作ともカルト作とも怪作とも駄作とも、全て合っている。人それぞれなのだから。
実際厳しい意見も目立つが、大林信奉者と言われようと、この作風がどうしても病み付き。
それにしても、大林監督の作品を見るといつも思うが、この映像表現やイマジネーションは何処から来るのだろう。
死を前にした老体に、何処からこれほどの作品を創れる凄まじい気力、精神力がみなぎっているのだろう。
酷評すれば酷評すればいい。昨今の日本映画は中身ナシの話題性や商業目的ばかり。本作は商業的には成功しないだろう。でも、いいのだ。映画監督は自分の創りたい映画を撮る。それはつまり、映画に自分の魂を刻む。
立場やキャリアなど関係ない。今の監督にそれが出来ようか。
大林監督はそれをやってのけた。

厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲ら若いキャストたちは監督の創造した世界観の体現によくぞ応えた。
中でも、本作が本格的デビューとなるヒロイン・吉田玲の初々しい魅力は眩いばかり。
周りを固めるは、近年の常連~久し振りの出演、若手~ベテランまでとにかく豪華! いちいち名前を挙げていたらキリがないくらい!
時折引用される中原中也の詩も印象的。その詩の一節や登場人物の台詞などに戦争を刺しつつ、日本そのものも皮肉り、痛くもあった。

大林監督の作品で常々描かれるのは映画愛、ノスタルジー、そして反戦。
この反戦こそ大林監督が最も訴えたい事であり、本作もれっきとした反戦映画である。
主人公の若者3人が入った映画は、戦争映画のオールナイト。その映画の中で、日本の近代戦争を体験する。
幕末の戊辰戦争、日中戦争、そして太平洋戦争…。
日本は戦争を(現時点で)放棄したが、たかだか150年ほど遡れば、他にも日露戦争や第一次大戦も含め、幾つもの戦争に加入している。これは、好戦国と言われても否定できないのでは…?
大林監督が身を持って体験したであろう太平洋戦争になるにつれ、異色でシュールで奇想天外だった作風はシリアス色濃くなっていく。
沖縄の悲劇、そして日本人なら誰もが知っておかなければならない広島への原爆投下…。
映画の中で出会った少女・希子、沖縄の愛する妻、広島へ向かう移動劇団・桜隊…。
運命を変えようとするも、彼女たちの死を目の当たりにする。
戦争は無情にも人の命を奪っていく。
その戦争を奉る軍国主義。同じ日本人なのに我々を虐げる鬼畜軍人。
それらを前にして、僕たちは無力なのか…?
愛する人、大切な人を助ける事は出来ないのか…?
戦争って、何なんだ…?

映画と戦争。
現実(リアル)の戦争、現実(リアル)ではない映画。
戦争は今も何処かの国で続いている。今すぐ戦争を止めるのは無理だ。
しかし、多くの人がその過ちに気付いた時、戦争は過去の歴史となる。その過ちを繰り返しては決してならない。
確かに映画は“嘘”だ。
でも映画には、無限の創造力、無限の未来がある。人々が映画を観、映画を創り続ける限り。
映画の中に入るというファンタジーだが、我々観客が映画を楽しむという事は、その映画の中に入ったと同じ事。その時映画は、現実(リアル)となる。
嘘から出た実。
映画で世界を変えられるか。
変えられると信じている。いや、変えられると信じて疑わない。愚かな戦争が繰り返される以上に。
戦争は死、映画は生。
だから、皆、さあ映画を観よう!

集大成であり、命を込めたメッセージ。
平和への祈り、願い。
大林宣彦のハッピーエンド。

近大
こころさんのコメント
2021年4月12日

近大さん
コメントへの返信有難うございます。
大林宣彦監督作品、この作品で2本目なのですが、監督の熱く独特な感性と温かい眼差しが刺さりました。
体調を崩されて尚、これほどの力強い作品を撮られるとは。
監督作品を観ていきたいと思います。

こころ
こころさんのコメント
2021年4月11日

近大さん
大林宣彦愛に満ちたレビューですね(^^)
大林宣彦ワールド、そして細田善彦さんの熱い演技も見応えがありました。

こころ
kossyさんのコメント
2020年9月21日

近大さん、おはようございます。
この作品でも最も感じられたのは大林流日本映画史!
映画とはこんなところに注目してくださいねと教えてくれてる講義でもありました。
理解するのが難しいという点では『花筐』の方が上ですよねw

kossy