「猛烈な映像と台詞量の波間にもまれながら、偉大な映画人の生き様に思いを馳せる」海辺の映画館 キネマの玉手箱 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
猛烈な映像と台詞量の波間にもまれながら、偉大な映画人の生き様に思いを馳せる
本作を見ながら私は「まるで遺言だ」と手の震える思いがした。製作当時、闘病のため生死をかけた日々を重ねておられる中で、きっと大林監督の頭にはこの現代人に伝えておくべき膨大な映像と物語とが、かくも尋常ではない猛烈なスピードで脈打ち、駆け巡っていたのだと思う。これは一人の映画作家が「時をかける少女」さながらに時代と記憶と意識の狭間を駆け抜け、生き抜いた証。人の解釈や評価や理解といったものをはるかに超越し、自らの持てる力を振り絞って息を吐き、体内に血液を巡らし、創造力に精一杯の火を灯しながら育まれた3時間かと思う。ある意味、宇宙人からのメッセージのような、人知を超えたところから降り注いでくる存在にさえ思えてならない。閉館する「瀬戸内キネマ」と同様、大林監督にとってもこれが最期の作品となった。当初の公開予定日、4月10日に亡くなられるなど、本当に映画を愛し、映画に愛された方だったことに胸が熱くなる。
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