「未来へ託した自分の為の自分だけの遺作」海辺の映画館 キネマの玉手箱 SHさんの映画レビュー(感想・評価)
未来へ託した自分の為の自分だけの遺作
大林宣彦という作家の原点であり集大成ともいうべき映画だった。
軽くて、不気味で、エロティックで、細々していて、ノスタルジックで、そして感動的で…。
テクノロジー的な進化を全く感じなくて、途轍もなく古めかしい。しかし、感情や感覚を奥底から揺すぶられるような思いになってしまうのだから、まさに映像マジック。
自分勝手な大林作品のイメージとしては、常に哀しいというもの。であるから、この最後の作品も、哀しくて、どんなに軽く陽気で派手な演出がふんだんに盛り込まれていようと、それがまた感傷を高めているような、そんな辛さを含んでいると強く感じてしまった。
今の日本は巨匠の目にはあまり好ましいものには見えていなかったようだ。
その元凶をただすべく、過去を(複雑怪奇でありながらも)丁寧に再現記録し、未来への強いメッセージを放っている。表現が余りにも独特すぎるので、素直に聞き入れることができないという鑑賞者は少なくないだろうけれど、作家の強い意志や哀しみは存分に伝わってくるはず、多分…長いし複雑で難解なところもあるけれど─。
劇場で寝ててもいいけれど、少しは何かを感じて、作品の雰囲気とは違った未来をつくってほしかったのでしょう。
変えたい過去は無数にあるし、過去を変えようと試みた映像作品は数多ある。大林映画にもあった、と思う。でもそのどの作品も過去を改変したものは無いのでは─。この遺作も、結局過去は変えられず…。でも未来はこれからつくられるのだ!という意志を自分は感じることができた。
すでにその志を受けつぐ者が日本映画を作り続け、これから受けつぐ者が良作を作り上げそしてまた世界を作り上げていってくれることだろう。それが決して哀しいものではないよう、自らもその中に加わっていこう!と劇場をあとにしながら思いに浸る。