「北欧の異端の祝祭・ペイガニズムという不穏さ」ミッドサマー かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)
北欧の異端の祝祭・ペイガニズムという不穏さ
アリ・アスター監督作品。
↓完全にネタバレいたします↓ご注意ください。
【ストーリー】
主人公ダニーは、妹が両親を道連れに自殺して以来、非常に不安定になっていた。
あるパーティでダニーは、文化人類学を専攻する恋人のクリスチャンが、スウェーデンはヘルシングランド地方の、ホルガ村の夏至祭(ミッドサマー)にゆくことを知る。
そこは留学生ペレの故郷で、夏至祭は90年に一度だけ執り行われる儀式だという。
クリスチャンについて自らもその地を訪れたダニー、北極圏特有の白夜の中、木々に囲まれた美しき草原の村に目を奪われる。
そこには純白の衣服を身につけた、優しく敬虔なキリスト教徒たちの姿があった。
皆で一つのテーブルを囲む食事、ペレの兄から勧められるマジックマッシュルームによる気だるさの中、彼女は妹の幻覚を見る。
好奇心であちこち回る彼らは、価値観のズレをおぼえつつも、ゆるやかに流れる時間を楽しんでいた。
だが平和と思われたその祭りは、アッテストゥパン——崖からの身投げ——の儀式により空気が一変する。
飛び降りたのは72歳の老人二人。
運悪く生き残った男の頭を、村人たちはハンマーで叩きつぶす。
あまりの光景に恐怖を覚える彼らだが、これはずっと行われていた棄老の儀式だという。
人類学の研究のために残ることを懇願されるダニーたちだが、仲間が一人また一人その姿を消し、目につかぬ場所で無残に殺される。
絡めとられるような恐怖の中、メイポール・ダンスでクイーンに選ばれたダニーは花冠を被せられ、自分のマネをする村の娘たちと草原をねり歩く。
そして小屋でクリスチャンが、彼の子種を得ようと欲する村の女性たちとかわるがわる交合する姿を見てしまう。
ダニーがショックを受けて号泣すると、村の娘たちも号泣する。
クイーンとなったダニーはクリスチャンを生贄として選ぶ。
彼はこれまでに犠牲になった者たちと並べられ、生きながら教会ごと焼かれてしまう。
キリスト教の十字架が掲げられた教会の中、北欧の異端の神に生贄として、はらわたを抜かれた熊の中に詰め込まれて焼かれ、泣き叫ぶクリスチャン。
恋人の叫び声を聞くダニーの絶叫は、勢力をます炎を前にしだいに笑いへと変わり、まわりの娘たちもクイーンと共に笑う。
そしてダニーの顔に、全てから解放された、屈託のない笑顔が残るのだった。
もうとにかく全編不穏です。
ずっと昼下がりのような白夜の時間も、ま新しい十字架の教会も、そこに置かれた聖なる書物ルビー・ラダーのつくりの稚拙さも、名画に描かれたエルフたちのように純白の服を着た村人たちも、暗黒中世を象徴するような、周りを取り囲む黒々とした森も。
理解するのには相当なヨーロッパの宗教史の知識が必要で、後から調べてあーあのシーンはそうなのかと納得するばかり。
すごく勉強になりました。
もう一度見た方が、おさらい出来ていいんですけど、怖くて見てません。だって怖いし。
子供の落書きに見えたルーン文字に、あんな恐ろしげな意味があったとは……。
今回ストーリーを最後まで書いたのは、着地点が分からないと怖くて見られない自分のような小心者を自認する方々のためです。
そのストーリーも、端折って書きながら、シーンの不穏さが蘇ってきて頭おかしくなりそうでしたけれど。
もう本当に怖い。
血のワシという処刑法とか体の芯がキュってなる。
大好きなABBAとかまっすぐ聴けなくなりそう。
オフホワイトで揃えた我が家のIKEAの家具が、不穏に見えてくる、そんな心の深奥に突き刺さる、知的なホラーでした。
コメントありがとうございます。
ひぐらしですか~
まだ見たことがありませんが探してみます。
英語圏は広いので、英語圏の国の物語として「とある事実」のような風に描かれると。あたかも似た風習があるように錯覚します。
この作品は英語圏の人が見れば尚更恐怖を感じるのかもしれませんね。
コメントありがとうございます。
いやほんと、もう一度見てみたい気持ちもあるんですが、怖くて見られないですよね。
ご存知かもしれませんが、今年の夏至の日(6月21日)に1日限定で、本作のディレクターズカット版が全国上映されるそうです。本日からチケットが発売されています。レーティングがなんとR15+からR18+に上がっております。
よけい見に行けませんよね(笑)おっしゃる通り、勉強になる要素が多い映画なので、悩ましいところです。