劇場公開日 2020年8月28日

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「ほら。辛い時はこうやって笑ったらええよ。」ソワレ 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ほら。辛い時はこうやって笑ったらええよ。

2020年9月6日
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鑑賞方法:映画館

最後の最後にドンと胸を突かれた。
「逃げなくてもいいのに」の思いで観ていながらも、安珍を追う清姫の焦りや怨念が二人の姿にかぶさっていき、タカラが「新しい場所」を求めていることに気付く。それは土地ではなく、翔太なのだ。たまたま翔太なのではなく、それは翔太でなくてはいけなかった訳が最後に明かされるが、それゆえ、逃避行の間の彼女は、幸せだったのだろう。神様は「逃げ道」を用意してくれた、という喜びとともに。生きる気力を失くしていたタカラだったから、その感情もうまく隠していた。それでも走る姿は力強かった。ほんとうはそうやって人生も颯爽と走りたかったんじゃないのかな、と思ったら不憫さが増してきた。

この映画は、誰かと感じた思いを語りたい映画だ。なぜ、二人は逃げたのか。なぜ梅干し農家の主人は見逃したのか。捕まる時、彼女はなぜ立ち止まったのか。空き家の影絵、夜の公園の意味も。そして、あのあと二人はどんな人生を過ごしてきて、これから過ごしていくのか。
たしかに、この映画は我慢を強いる映画かも知れない。でもそれは観客側に想像の余白を残してくれているとも言える。だから、わからない部分は自分で埋めればいい。皆生きてきた人生が違うのだから、たぶん、その想像も皆違うだろう。
※ひとつだけ妄想を言わせてもらうと、そもそも今回の事件で微罪の翔太ははやく社会復帰でき(もしかしたらオレオレ詐欺の罪も含め)、過剰防衛と逃亡の罪状のタカラは情状酌量で減刑されるも実刑で服役中。そして、翔太は、彼女の出所を待っている。だから、物語のラストで彼女の姿はない。だって、これから戻ってくるのだから。再会したときたぶん翔太は、口元を指でなぞって、笑ってあげるんじゃないかなあ。

栗太郎