「上書きされても消えないもの。」サヨナラまでの30分 YKさんの映画レビュー(感想・評価)
上書きされても消えないもの。
最初はなんで今どきカセット?と思ったけど、これがやりたかったのか。30分だけの特別な時間。何度も上書きしていく。でも過去の記録も完全になくなってしまうのではなく、実は残り続けている。それが人と人の関係性とも重なる。いなくなってしまった人とは会うことはできないし、少しずつ忘れて、新しい日々の記憶で上書きされていく。そうしないと、前を向いて生きていけない。でも消えてはいなくて、いなくなった人の思い出はどこかでずっと残り続ける。
こういうテーマも、幽霊が一時的に生きてる人に乗り移るという設定もよくあるけど、おしゃれな映像と音楽の力、そして北村匠海の魅力がこの映画を輝かせていると感じた。
北村匠海くんは、ドラマ「隣の家族は青く見える」の明るくて無邪気なゲイの役や、映画「勝手にふるえてろ」のちょっと影のある役が印象的で、この作品では一人二役で、そのどちらの要素も発揮していて、改めてうまいなあと思った。そして多少強引な展開も、納得させる歌声の魅力。
こういう「幽霊が乗り移ることで、ダメダメだった主人公が非凡な才能を発揮し、周りに認められていく」という設定の場合、
「主人公の能力は幽霊によるものであり、本人には能力がない」とバレる、あるいは能力(幽霊)が消えてしまう瞬間が必ず訪れるし、そこで主人公や周りの人間は葛藤したり、傷ついたりする。
でもこの物語では、主人公自身にも実はちゃんと今までの努力によって培われた能力があり、人間的な魅力もあり、そこをちゃんとバンドメンバーも恋人も認めて(幽霊と似ているところもあるけど)別の人間として彼を迎え入れているところがいいなと思った。
幽霊の影響はもちろんあるけど、性格も、能力も、お互いの良さがうまく溶けあって、まさに「彼の分も生きる」。
それを体現するようならラストのライブシーンは何度でも見たくなる。