「動物の擬人化も悪いことではない」ドクター・ドリトル 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
動物の擬人化も悪いことではない
大抵の人間は動物の動きや表情を擬人化して理解しようとする。それによって面白いとか可愛いとか思う。ペットを飼っている人の殆どがそうなのではないかと推察する。猫や犬のことを「うちの子」と呼ぶような人は、ペットを人間のように扱っている節がある。それは動物にとって本当にいいことなのだろうか。
とはいっても人間はどうしても動物を擬人化してしまうものだから、普通の人が獣医や畜産業者のように動物に対してニュートラルに接するのは難しい。「何が面白くて駝鳥を飼ふのだ」という出だしで知られる高村光太郎の詩「ぼろぼろの駝鳥」でも、駝鳥を擬人化して境遇の不幸を憐れんでいる。そのあたりがセンチメンタルな詩人らしさではある。
人間は科学よりも情緒に支配される精神構造の生物ということに加えて、自分を基準にしか物事を判断できないから、他の生物も自分の情緒の世界と同じように判断してしまう。理性的には科学的で客観的な判断が可能だが、情緒的には自分を投影することになる。人間の精神性の限界かもしれない。
しかし逆にそういう精神性を楽しむことも出来るし、そういう作品を作ることも出来る。本作品はそんな映画のひとつだと思う。動物のCGアニメーションは大変によく出来ていて、こういう作品を観ると、そのうち映画には俳優もいらなくなるかもしれないと考えてしまう。しかし人間の主役として演技するロバート・ダウニー・ジュニアの表情にはCGにはない具体性が見て取れ、そこにはCGのどこか茫洋とした表情では伝わらないものがあるのは確かで、もう暫くは映画俳優の需要がありそうだ。
主に子供が観て楽しい作品だが、大人の鑑賞にも十分に堪えうるクォリティがある。ロバート・ダウニー・ジュニアもさることながら、声で出演したエマ・トンプソンやマリオン・コティヤールのアテレコも素晴らしい。ディズニーらしい平和な世界観もコロナ禍のこの時期には気持ちをホッとさせてくれる。
映画としての深みはないが、軽い気持ちで観られて気分が和むことはたしかである。動物の擬人化も悪いことではないという気がしてきた。