「白鳥貴族」ダウントン・アビー かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
白鳥貴族
英国貴族の大邸宅で起きた殺人ミステリー『ゴスフォード・パーク』。いわゆるアップステアーズとダウンステアーズの対比がお見事だったその脚本を担当したのが、大ヒットTVドラマ・シリーズ『ダウントン・アビー』生みの親であるジュリアン・フェロウズ。男爵としての爵位も持つフェロウズ脚本による本映画化作品は、過去そして現代の英国社会にも目配せした奥行の深い歴史ドラマに仕上がっています。
時代設定は1927年。ナチスドイツ台頭とともにイギリスからアメリカへと覇権交代が進む中で、斜陽を免れないある地方貴族の物語。盛り沢山のテーマが(すし詰め状態で)目まぐるしく展開される本作は、(殆どTVシリーズを見ていない自分が言うのも気が引けるのですが)”シーズン7”の総集編ともいうべき濃厚なテイストが魅力となっています。本作が興行的にも大成功をおさめた理由として、キャサリン妃のファッションを競ってまねたがるロイヤルオタクにとどまらない幅広い層の支持を得たことがあげられるでしょう。
ファンムービーとしてだけではない本作の魅力を、(自分が気づいた点だけ)箇条書きにしてまとめてみましたのでどうぞ。
①王族付下僕vsダウントン・アビー付下僕の主導権争い
キング&クイーンの行幸(ブレグジット)を巡るエリート(グローバリスト)vs保守反動派の争いの隠喩ですかね。行幸にわきたつクローリー家の人々、意外とアメリカ人と同じポピュリスト?
②後継者問題
いかにして後継者に財産を残し家を継承していくかが、貴族にとっては最大の関心事。『ギリギリ(の生活)はいやなの』とはいいながら、ラスト斜陽する運命と戦う決意を固めるメアリー。キングが行幸しようが、ボイラーが壊れようが、雨が降ろうが、貴族は優雅に躍り続けなければならないのです
③身分違いの恋
ジェームズ5世の後継者エドワード8世の“王冠をかけた恋”をベースにしているテーマといえるでしょう。チャールズ皇太子しかり、ヘンリー王子しかり。やはり歴史は繰り返すのでしょうか。
④キング暗殺未遂事件
独立戦争の熱冷めやらぬ当時、アイルランド人のトムが事件発生を未然に防ぐのです。共和主義と保守反動主義を融合したポリティカルな演出が現代の世相ともマッチしています。
⑤執事バローの同性愛
『日の名残り』で当主に暇を出されたホプキンスもそれぽかったけれど、実際メアリー王女に仕える執事たちには同性愛者が多かったとか。娘のエリザベス(現女王)やマーガレットに変な虫がついたら困りますからね。史実をふまえたLGBTへの配慮ですかね。
水面を優雅に泳いでいるように見える白鳥も、水面下では足をばたつかせている。それが俺たち貴族なのさ、と劇中誰かが語っていましたよね。その水面下の動きをしっかり支えているのが、ダウンステアーズの下僕たちなのです。脚本家フェロウズは英国民にむけてこう言いたかったのではないでしょうか。キング&クイーンの行幸で家計を圧迫されようと、ブレグジットで経済的停滞を招いたとしても悲観することはない。我々は名誉を取り戻したのだから。