劇場公開日 2019年11月1日

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「身を焼かれるほどの絆」キューブリックに魅せられた男 lllさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0身を焼かれるほどの絆

2025年2月8日
iPhoneアプリから投稿

「シャイニング」を観るたびにこの映画を観たくなるので3回目の鑑賞。キューブリックの手となり足となり正に人生を捧げたリオン・ヴィタリの生涯に妙に惹き付けられる。テンポも良く丁寧な作りで楽しめる。

リオンは最初から裏方だったわけではなく「バリー・リンドン」の息子を演じた俳優出身と知りビックリ。キューブリックの映画作りに魅了され、順調だった俳優業を捨てたのだ。

キューブリックの信頼を得た彼は公私に渡って彼をサポートし、作品のクォリティを高める重要な役割を果たす。監督の要求は過度に高く厳しく時には理不尽だが、彼は監督に畏敬の念があるのでどこまでも献身的なのだ。夜中でも電話攻撃、まともな休日もない生活。現代ならパワハラ・労基法で問題になるだろう。
裏を返せばスタンリーはリオンに絶大な信頼を寄せていたということだ。

映画ではリオンのことを「天才という光に吸い寄せられ、身を焼かれる蛾」と表現していたがここまでの自己犠牲があったのならそれも言い得て妙である。でもインタビューに答える晩年のリオンの表情は実に穏やかだ。スタンリーの信頼を得て役立つことが出来たのは本当に幸せだった、と。ライアンオニールの「彼は一生に一人いれば幸運である『師(master)』と出会ったのだ」という言葉も印象的。

リオンは2022年に逝去しているが、私は彼の裏方としての存在を全く知らなかったので存命の間に光を当ててくれてありがとう、という気持ちになった。この映画を観る前と後ではキューブリック作品の見方も変わる。こんな人生もあるのだ。

U-NEXTにて。

lll