劇場公開日 2020年7月3日

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「スプリングスティーンに電撃が走る感覚を見事に映像化。しかし周囲の視線もしっかり含めた、丁寧な作りの作品。」カセットテープ・ダイアリーズ yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5スプリングスティーンに電撃が走る感覚を見事に映像化。しかし周囲の視線もしっかり含めた、丁寧な作りの作品。

2020年7月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

予告編を観て、多分好みの作品だろうなー、とは思っていたけど、ブルース・スプリングスティーンはアルバムを一枚買ったきりだし、なんか先が読めそうな内容だな(失礼)という先入観もあって、あまり期待せずに鑑賞。しかし予想外に良かった!

 本作にスプリングスティーン自身は出演せず、あくまで彼の熱烈なファンである、実在のパキスタン系英国人青年についての物語です。彼がスプリングスティーンに開眼する場面では、何かにのめり込んだ経験のある人なら誰でも共感するであろう、あの「電撃」を見事に映像化。同じ手法を『モテキ』(2011)や『バクマン』(2015)でも使っていたことを考えると、青年期の衝動に抱く感覚は、洋の東西を問わず共通しているのでしょうか。

彼らの衝動と多幸感のままに、スプリングスティーンの曲に合わせてミュージカル場面が展開するけど、日常からミュージカル空間への移行の自然さが最高。そして主人公の世界の外部にいる人たちの中にはきっちり迷惑がっている人が含まれているのも!本作は常に、何かに世界を押し広げられる陶酔を描きつつ、それが周囲からどう見えるのか、という視点も忘れていません。これは、主人公に対する過度な肩入れを抑制する、という演出上の意味があることはもちろんですが、作品全体のテーマとも繋がっています。

作中で、1980年後半の英国におけるスプリングスティーンの位置づけをそれとなく説明している点も良かったです。しかし英国の青少年にとって、彼は「親の世代の曲」だとは。ワールド・ツアーとかバリバリにこなしていたのに!

本作はもちろん、米国における黒人の人権を巡る抗議活動が現在ほど大きくなる以前に制作されていますが、まるで現在の状況を予見していたような描写が含まれていることに驚かされます。「反ファシスト」という台詞までも。この問題がどれほど根深いのか、改めて思い知らされます。

yui