「カセットテープ時代の、人々の音楽への愛着が羨ましくなる!」カセットテープ・ダイアリーズ セッションさんの映画レビュー(感想・評価)
カセットテープ時代の、人々の音楽への愛着が羨ましくなる!
全編がブルース・スプリングスティーンのヒット曲で彩られた本作は、
青春音楽映画の歴史に新たな1ページを刻んだ、
まごうことなき傑作でした!
1980年代後半のイギリスを舞台に、
スプリングスティーンの音楽に影響を受けながら成長していく
パキスタン移民の少年ジャベドの姿を描きます。
本作では、歌・執筆・ダンスなどが、
自己表現の手段としてフォーカスされますが、
それらはすべて、アイデンティティの肯定を促してくれる尊いものである
と高らかに宣言する場面の数々は、
一映画ファンの私にも深い感動を与えてくれます。
文才もない自分が映画の感想を書きためるのは、
作品を通じて未知の世界に手を伸ばし、
理解に努めることで自分の視野を広げられるからだ!
と改めて気づかせてくれました。
キャストでいえば、
メンターとしてジャベドの夢を後押しする教師役のヘイリー・アトウェル、
『1917』でも素晴らしい演技を見せた、『ゲーム・オブ・スローンズ』のトメンでおなじみ、
ディーン=チャールズ・チャップマンらの好演が光っています。
お互いを理解しあっていたはずの友人や、
現在の自分と同じ境遇を経験してきた父親の存在が、
成功を追い求めるあまり見えなくなってしまうジャベドの様子を端的に表現した
『Blinded by the Light(光で目もくらみ)』
という原題もお見事。
未見の方にぜひ注目していただきたいのは、
序盤に貧乏ギャグとして登場する
「主人公一家のエンジンがかからない車」。
後に家族との関係に葛藤することになるジャレドの苦悩を強調し、
最後には晴れやかな旅立ちの場面との対比として機能するとは…
他にも、ジャベドの怒りとシンクロしていた雷鳴を、
音楽に衝撃を受けた彼の内面を表す小道具に変化させていく一連のシーンなど、
グリンダ・チャーダ監督の確かな演出力には脱帽するほかありません。
夢を実現するには、故郷や家族のしがらみを捨てるしかないのか?
あらゆる映画で語られてきたこのテーマを、
執筆が得意なジャベドの特性を活かして伝えてくれる「あの場面」が忘れられない、
海外での高評価も納得の一本でした。
一度は親と不仲になったことのあるすべての人にオススメ!
お互いを理解しあっていたはずの友人や、現在の自分と同じ境遇を経験してきた父親の存在が、成功を追い求めるあまり見えなくなってしまうジャベドの様子を端的に表現した『Blinded by the Light(光で目もくらみ)』という原題もお見事。
→いやまさに。自分だけ成功ではないというこの作品の肝ですよね。