T-34 レジェンド・オブ・ウォー : 映画評論・批評
2019年10月15日更新
2019年10月25日より新宿バルト9ほかにてロードショー
本物の戦車の迫力と哀愁に酔いしれる
戦車から放たれた砲弾が車両をかすめる時の金属音を聞いたことがあるだろうか。「キーーーン」という耳をつんざく金属音が狭い戦車内にこだまし、乗組員の顔が苦痛にゆがみ、観ているこちらも思わず脳震盪を起こしそうになる。戦車を題材にした作品は数多いが、こういう描写にはなかなかお目にかかれない。
本作は、そんな目を見張る描写が満載だ。砲弾が着弾する瞬間をスローモーションと巧みなVFXで捉え、砲弾の視線でカメラが相手戦車に向かって飛び込んでいく。さらには、戦車が片輪走行を始めたと思ったら、美しく「白鳥の湖」を舞い踊り、ピカピカのドイツの高級車を躊躇なく踏み潰すなど、爽快感と驚きたっぷりのアクションをこれでもかと見せつける。夜の市街戦では、民家を存分にぶっ壊してながらの陣取り合戦に、至近距離からの砲弾の撃ち合いと、沸き立つシーンの連続だ。しかも「T-34」はなかなかにすばしっこいので、重量感だけでなくスピード感あるアクションも多い。
物語は、第二次大戦の独ソ戦でドイツ軍が演習目的で捕虜を生きた標的としていた史実から着想しているが、その事実を掘り下げる方向には発展させず、捕虜となったソ連兵が演習用の「T-34」に乗り込み決死の脱出劇を図るという筋書きとなっている。まるで「大脱走」の戦車版だが、戦車アクションの迫力に加えて、緊迫の脱出劇と自由を求めて諦めない男たちの不屈の友情、そしてロマンスが作品のスパイスとして効いている。
本作に登場するソ連の戦車「T-34」は全て本物。狭い車内に小型カメラを取り付け撮影し、本物を役者自ら操縦しているそうだ。現代映画の技術ならいくらでも偽物を作り出せるが、本物の持つ戦車には、その無骨なボディに哀愁と気品、そして無念の残滓を感じてしまう。「兵どもが夢の跡」というやつだろうか。迫力と娯楽重視の戦争映画なのだが、本作には散っていった人々に想いを馳せる瞬間も確かにあるのだ。
(杉本穂高)