「丁寧に作られているが少し詰め込みすぎのような」糸 みりぽんさんの映画レビュー(感想・評価)
丁寧に作られているが少し詰め込みすぎのような
中島みゆきさんの糸をテーマに平成の時代に二人の男女の巡り合う運命を描いた作品。
冒頭のミサンガから始まり、携帯電話、そして東日本大震災…所々に当時を伺わせるモチーフが散りばめられており、そういえばあの頃そんなものが流行っていたなぁ、と懐かしく思えるシーンがいくつもある。
ちょうど平成初期前後に誕生した人なら、その次代の移り変わりをまるで自分の今までの人生を重ね合わせるように共感できるだろう。
作品の感想としては、はっきり言うと映画というよりドラマの総集編と言った印象。
冒頭の少年時代のエピソードから伏線が貼ってあり最後にそれを回収するシナリオは非常に丁寧ではあるものの、ややこじつけ気味なわざとらしさを感じてしまった。
また登場人物が非常に多く、回想や場面転換も頻繁に繰り返すのでタイムラインが把握しづらく混乱してしまう。
そして日本映画にありがちなキャストは非常に豪華なものの個々の個性が強すぎて一体誰が主人公なのか分かりづらいという点。まさにアベンジャーズ状態。
もちろん目当ては主役の二人を銀幕で見たかったというのが正直な動機ではあるが、作品の登場人物として役になりきれているか、今までとは違う演技が見れるのではないかという期待もあった。
しかし菅田将暉は「あああ~~!」と叫ぶシーンは今にも変身するのではないかとドキッとしてしまったし、小松菜奈は終始冴えない表情で世界に出て活躍する園田葵のキャラとは少しイメージがマッチしなかった。
他にもキャストを色々詰め込んで個性豊かな俳優陣ではあるものの、脇役のほうが目立ちすぎてしまって、肝心の二人の登場シーンが少ない。
何故友人の結婚式のシーンはあれだけ丁寧に撮っているのに、漣や葵のシーンは全くないのか。
葵が事業に失敗するシーンも、裏切った友人の方が思いつめたものがあり何故か葵が可愛そうだと思えない。
結局、二人の巡り会いよりも子供食堂のおばちゃんがすごい良い人だったという印象に全部持っていかれてしまった。
倍賞美津子の演技力がいい味を出しているものの、存在感が強すぎて若手の演技があまり印象に残らない。
しかもエンドロールのエピローグでも二人の結婚式に呼ばれているので、なおさらおばちゃんが全部面倒を見てあげてハッピーエンドになったかのような印象を受けてしまう。
そして最悪だったのが真ん中に縦線を入れて二分割するシーン。映画はテレビじゃないのだから大きなスクリーンで見ているとバラエティ番組のような安っぽい編集は非常に興ざめ。
一体どっちの人物に焦点を当てていいのか分からず首を左右に頻繁に動かすことになり集中できない。
パソコンで編集ばかりしていて大きなスクリーンで視聴することを全く意識していないのではないか。
それとも単に尺がなくなってしまって帳尻合わせで終盤を二分割して詰め込んだのだろうか。
いずれにしても少しお粗末だと感じた。
2時間ドラマ10話分の尺なら名脇役として個性ある役者は多数必要なのかもしれないが、あくまで映画として見せるのであればもう少し他の役者のウェイトは少なくすべきだろうと思う。
そして映像としても二人の人生を描くにはあまりにもせわしく味気ない。
糸というよりは織物と言った作品だった。