劇場公開日 2020年8月21日

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「キャスティングは良いが、連続テレビドラマに合った題材を冗長な映画にした努力作」糸 Gustav (グスタフ)さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0キャスティングは良いが、連続テレビドラマに合った題材を冗長な映画にした努力作

2020年8月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

中島みゆきの名曲「糸」が織り成す人と人との繋がりを、18年に渡る平成の時代背景に壮大に構築した一組の男女、高橋漣と園田葵の物語。2008年のリーマン・ショックやその3年後の東日本大震災などが組み込まれた其々のエピソードが、ダイジェストに並べられている。家庭内DVから逃避行したキャンプ場で引き裂かれる別れの場面と、同級生の友人の結婚式で再会するシークエンスのふたりの本当の想いは、ラストのクライマックスの為に活かされて、映画的な工夫が為されている。それ以外は経過の説明不足な描写が多く結果のみで、登場人物に感情移入することなく最後まで付き合わされることになる。この語り口と組み立てなら、映画より連続テレビドラマに向いていると思われる。映画としては、冗長に終わってしまった。緊迫感のない演出も脚本の構造不備を補っていない。

但しキャスティングは綺麗に配置されている。菅田将暉と小松菜奈は、ともに好感度高い良い演技を見せてくれる。どちらも抑制の効いた大人の演技力を持ち合わせた逸材と再確認できた。結婚式場を去ろうとする葵を追い掛けて、想いを打ち明けられない口惜しさと虚しさに苛まれる菅田将暉の複雑な表情演技が傑出している。小松菜奈が美瑛の「子ども食堂」で泣きながら食べる見せ所の演技も良いが、その伏線となるシンガポールで友人に裏切られて日本を思いカツ丼を食べるシーンが秀逸だった。そのせいで本来の見せ所の効果が半減するという勿体ない現象が起こる。その他永島敏行、倍賞美津子、山口沙弥加、高杉真宙、二階堂ふみ、成田凌、と役柄に嵌っている。子供時代の漣と葵の南出凌嘉と植原星空の演技も作品の世界観を支える好演で、その点ではもっと二人の本当の想いに集約したストーリーで良かったのではないかと思う。
平成の時代に引っ張られた壮大さに固執した制作意図の野心が、上手く映画的な表現に昇華しなかった努力作。葵のネイリスト派遣会社の成功や、ミシュラン三ツ星レストランに評価される漣のフロマージュ・フレと、背伸びしたエピソードにどうしても鼻白むのが正直な感想となる。

Gustav