「つまり"感情"だ。」気狂いピエロ HAL2005さんの映画レビュー(感想・評価)
つまり"感情"だ。
作中に出てくる映画の定義にこの映画が沿っているのなら、この映画は感情でできているのだろう。
その感情は男と女が、互いに抱き合う感情なんだと思った。
感情は言葉にならない。だから、態度や行動で示すのがマリアンヌ。
対して、言葉にしようと悪戦苦闘するのがフェルディナン。
男は女が理解しようとしないのに苛立つ。
女は男ができないことが明白なことに悪戦苦闘してる様子をピエロだという。
恋愛映画と言い切ってしまうのは浅はかに思われるのがこの映画の意地悪なところで、当時の時代の雰囲気、ベトナム戦争や、中東の戦争についての言及が政治に興味津々のゴダールらしい。
つまり、いろんな要素がとっ散らかっていて訳がわからない。まるで一人の人間の内面のように多面的な"ロマン"だ。
私事だが、僕はフェルディナンにとても共感した。好きな女の子にはどうしても甘く、そして、自分のありのままの正確な気持ちを伝えたくなる。しかし、女はそれに苛立ち、男はそれに気づかない。辛くなった。
女は女で、男のことが愛おしくなる時もあるが、それが伝わらないことを知っていて、諦め、絶望しているが、そんなもんだと腑に落ちている(のだと感じた)。男はそれが理解できない。女を抱きたいという言葉には相手の気持ちも理解したいと思っているという意味もあるはずだ。
でも、そんなことをずっと言ってるわけじゃない。人生だから、関係ないつまんないこともある。それが、ベトナム戦争の話だったり、追ってくる犯罪組織だったり、が、この映画を人生そのものに近づけている。
「あなたにとっての1番の映画は?」
と、聞かれた時、僕は「気狂いピエロ」と言った。その選択には格別の自信があった。その人は僕に問うた。「なぜ?」
答えられなくてとても悔しかったが改めて観た今は思う。言えないのは当然。これは僕が好きな女の子に伝えたくて、死ぬ思いした"感情"そのものだったから。