「良質な会話劇とシンプルなラブストーリーと」WEEKEND ウィークエンド 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
良質な会話劇とシンプルなラブストーリーと
バーで知り合い、俗にいう「お持ち帰り」に成功した男性同士のカップルの2日間。この映画が紡ぐ一組のゲイカップルの物語は、別段ドラマティックにされるでもなく、あからさまなメッセージを打ち出すでもなく(たださりげなく気づかされることは多々ある)、好奇心を煽るでもなく、(当然のことながら)BL的な需要に応えようとするでもなく、ただただ二人のことをじっと見つめたとてもリアルなラブストーリーであると同時に、相反する性格・性質を持った二人のそれぞれの思想や哲学をぶつけ合う、実に上質な会話劇だった。
そうだ。この映画はLGBT映画とジャンル分けするよりも、会話劇としてジャンル分けした方がいいのではないかと思うほど、主人公二人の会話が大きなカギを握る。脚本があることや演技であることを忘れさせる二人の会話は、とても思慮深く論理的でありながら、その奥深いところで非常に情動的。自身がゲイであると気づき、ゲイとしてこの社会をまさに今生きているそんな人間たちの信念や心情が、二人の会話からなんとも正直な言葉として表出してくる。同じゲイであっても、ラッセルにはラッセルの思いがあるし歴史がある。そしてグレンにはグレンの思いがあるし歴史がある。二人がそれぞれに正直になればなるほど、私は二人の会話をずっと聞いていたい気持ちになった。作られたセリフではない、生の声を感じる説得力。
終盤でグレンが異国へ行き離れ離れになる、というなんともベタな展開に突き進んでいくのに若干怯んだものの、それでもラッセルとグレンの生の声の説得力は変わることなく、フィクションやファンタジーではない、今現在同じ時を生きる地上のどこかに存在する名前を持った誰かのラブストーリーだと最後まで思わせてくれた。わずか二日間のシンプルなラブストーリーだったけれど、実に充実した96分だった。
「さざなみ」や「荒野にて」など、繊細な感情の機微を掬い取る作風が見事なアンドリュー・ヘイ監督だけれど、二人の相反する価値観を双方からぶつけ合わせるこんな会話劇を描けるだなんて、ますますお気に入りの監督になったし、次作が公開されたら絶対に無条件で観に行きたいと思った。