「とんでもないものを観てしまった」カイジ ファイナルゲーム ナグラさんの映画レビュー(感想・評価)
とんでもないものを観てしまった
元々カイジが好きで、つい最近Netflixでこの映画が配信されたことを聞き、視聴した。
結果として、Netflixで視聴できたことを喜ばしく思う。もし劇場の大画面で、10秒スキップも音量の調整も出来ないままに無言で見ることを強制されたなら、私はあまりの微妙な空気感に耐えられず、途中退出していただろう。
それほどまでにストーリーが雑で、ツッコミどころが満載で、役者の演技がお粗末だったのだ。
この映画の残念ポイントは大きく3つ。リアリティの欠如、本作のメインゲームである人間秤、そしてサブキャラクターの1人であるラッキーガールこと桐野加奈子の存在である。
まずリアリティの欠如だが、これは作中、2時間一貫して顕著な特徴である。オリンピック直後というそこまで遠くない(遠くなかった)未来なのに、異常に高い物価、スラム街のような町並み、倫理観の欠如した人々を見過ごす民衆。黒崎の非道な発言にはノータッチで、喋る時だけ大声で野次を飛ばし、それ以外の場面ではだんまりの聴衆。10人中9人が死ぬというあまりにも現実離れした設定のゲームと、それをすんなりと受け入れるカイジたち。1度取り押さえたにも関わらず、カイジに押し返されるとすんなりと離れていくへなちょこ黒服。なぜかスタジアムに集まるカイジと高倉。書けば無数に出てくるが、これ以上は割愛する。とにかく、リアリティが皆無なのである。必然的に臨場感は無くなり、バンジージャンプで命をかけるシーンでも前作の鉄骨渡りのような緊張感は0であった。リアリティの欠如は作品のお芝居感を強くし、没入感を弱くすることをよく実感出来る。
次の残念ポイントである人間秤では、とにかくツッコミどころが多すぎるため、先述したようなリアリティの欠如とはさらに別のつまらなさを感じられる。カイジvs黒崎ではなく、新キャラvs黒崎という構図が迫力を半減させているようにも感じるが、この設定は都合上仕方なかったのだろう。ただ、金塊が何百個も乗っているのに欠けた金貨1枚で傾く天秤に関しては必要性を感じられなかった。そこまで接戦になるのなら、さらに正確な電子天秤を使うべきだ。時計技師の伏線もあまりにもわかりやすく、伏線としての意義を果たしているかも怪しい。結末もあまりに運頼みであった。もしあの場にいた誰か1人が投げる金貨を1枚でも減らしていたなら、カイジたちは敗北し、高倉たちの預金封鎖は実行され、日本は大混乱に陥っていただろう。正直言うと、私は最後の最後までカイジの大どんでん返しを期待していた。基本的にカイジは勝つべくして勝ってきた。最後に驚きのトリックが明かされるに違いない。しかし、オチは「運」であった。非常に残念で、物足りないオチである。
最後に、非常に不快なキャラクターである桐野加奈子の存在である。実写版カイジでは、メインキャラクターに女性を足す傾向がある。それ自体を否定することはしないが、主軸への関わりが薄く、役立たずで、形だけの女性を足すのはいかがなものか。とにかく存在感がない。唯一の活躍シーンを挙げるとすれば、バンジージャンプで当たりの番号をカイジに伝えたことだろうか。しかし、あのシーンも良かったとは言い難い。キューの伏線回収に気づいた時は「そういう事か」とは思った。しかし、「やられた」と思ったり、凄みを感じたりはせず、むしろ寒ささえ感じた。前半でのキュー発言が不自然で、わかりやすすぎたのである。それ以前に、なぜ数字を視覚で伝える努力をしなかったのだろう?番号を洗い出している最中に、「9と10は口の形が同じになるから気をつけておこう」とは思わなかったのだろうか?口の形なんて分かりにくい曖昧なツールを使うのではなく、指で伝えればいいのだ。一応9本の指を出すような動作はしていたが、それも中途半端で、彼女は声で伝える方に重きを置いていた。なぜその状況で声がカイジに届くと思ったのだろうか?キューというわかりにくい秘密のメッセージではなく、最初からわかりやすく、9本指で伝えればよかったのだ。指は10本あるのだ。
このように知能の低さを晒し、足を引っ張りながらも、なんとかリーダーのカイジが大金を得ることに成功する。しかし、遠藤に分け前を要求された役立たずの加奈子は、なんとカイジの分け前を全て騙し取り、遠藤に渡すことに決める。この行動は到底信じられるものではない。例えそれが遠藤の発案だったとしても、である。高倉を倒した時点で、カイジは前作のようなただの大金持ちではない。底辺から知恵を振り絞り、大金を手にし、日本を陰謀から救った英雄なのである。それに対し、加奈子は運が良かったからといって調子に乗り、簡単な仕事すらまともにこなせず、一度カイジを殺しかけた役立たずなのだ。そんな役立たずの馬鹿女が、国民を守ったヒーローの分け前を騙し取るなんてことは、まともな神経をしていれば到底できまい。「でも 分け前は人数分しか…」ではない。カイジに事情を話せば、遠藤の分け前などいくらでも捻出できただろう。活躍度で言えば カイジ>>>>遠藤>廣瀬>加奈子 なのだから、むしろ何もしていない加奈子が身銭を切ってでも遠藤への分け前を出しても良かったのだ。彼女の頭の悪さ、倫理観の欠如、当事者意識の欠落が、彼女をこんな愚かな行動に走らせたのだ。最後の一文無しになったカイジはギャグシーンのように描かれていたが、個人的には非常に不快な描写であった。
ただ、比較的良いと感じたシーンもいくつかはあった。その一つがゴールドジャンケンである。純金を持った時の手の震えを利用したトリックは、シンプルで興味深い。今まで誰もそのままのグーを出さなかったというのは不自然だが。
「みんなで泥水すすりゃいいじゃねえか」という微妙な理論を展開したカイジではあるが、あそこまで努力したのに無能に騙されて一文無しのエンドは気の毒である。雑なストーリー、大量のツッコミどころ、微妙な演技に最悪のキャラクター、そして後味の悪いエンディング。間違いなく史上最悪の映画であった。唯一の救いはこの映画が「ファイナル」で続編が出ないことだ。