「自分がボケたり死んだりするちょっと前に思い出したい映画。」男と女 人生最良の日々 ウシダトモユキ(無人島キネマ)さんの映画レビュー(感想・評価)
自分がボケたり死んだりするちょっと前に思い出したい映画。
とにかくこの映画を観た後に、ツイッタやブログで昔の恋愛語りをおっぱじめてキモがられる系おじさんにだけはなってはならぬ、と固く心に決めて観に行った(笑)。
でも昔の恋愛を懐かしくも切なく思い出して身悶えするような映画ではなくって、むしろ面白いというか、なんなら珍品かとも思うような作品だった。冒頭から長回しでアップになるジャン=ルイ・トランティニャン、むっちゃ鼻毛出てたりとかするし。
53年後のオリジナルキャストということで、アヌーク・エーメとジャン=ルイ・トランティニャンはいくらなんでもさすがにヨロけていたし、撮ってる監督も同じく53年後のオリジナル監督、クロード・ルルーシュ。そのストーリーテリングも演出もそれなりにヨロけていて、「ああ、年老いた人が作った映画だな」ということが伝わってきた。
「若い作り手が今の感性で昔の名作の続編を作る」っていうような企画だったら、きっと「昔の恋愛を懐かしくも切なく思い出して身悶えするような映画」が出来上がっていたかもしれない。
でも僕は、この作品の監督がクロード・ルルーシュで良かったと思ってる。「ああ、年老いた人が作った映画だな」という手触りは、年老いた俳優2人を優しく包んでるみたいな観心地となって、結果良い映画だったなって思ってる自分がいる。
老人ホームでぼっちになりがちなボケはじめの男がいる。正気とボケの狭間は、現実と夢の狭間。そこに生涯でいちばん好きだった女の人が会いに来てくれましたよ。しかも彼女は未だ自分を愛してくれているみたい。というお話。「あぁ、男の人が作った映画だな」という、いかにも老いた男が「最期の理想」として憧れそうなお話だよね。でもそれを可愛らしいと思えるのはやっぱり「あぁ、年老いた人が作った映画だな」っていう手触りがあるからだと思う。
年老いた演者と年老いた監督が映画を作ることや、その映画の中で年老いた男と女が恋愛をすることを、バカにして笑うわけでもないし、年老いても尚の愛だから切なくも美しい!とありがたがるわけでもない。
ただこの映画の「観心地の良さ」に浸り続けるような気分で、良い思い出の中に意識が溶けていくなら、そういう「男と女の終わり」って最高なんだなって思う。それが全て意識が溶けていく途中に見た幻だったとしても。
多くの人にとって「今観なきゃいけない映画」ではないかもしれない。でも「今より後では作れない映画」ではあったから、今観ることにはなった。自分がボケたり死んだりするちょっと前に思い出したい映画である。