ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー : 映画評論・批評
2020年8月11日更新
2020年8月21日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかにてロードショー
パブリックイメージを華麗にぶち壊す、オリビア・ワイルドの強烈な監督第1作
邦題には卒業というワードが加えられているが、オリビア・ワイルドがステレオタイプともいうべき題材を、なぜ監督第1作に選んだのか、実はあまり腑に落ちていなかった。本編を鑑賞するまでは……。ワイルドは、スクールカーストで下位にいる主人公の女子高生2人を使って「ハイスクール映画」というジャンルから今作を解き放ち、自らにつきまとう「知性溢れる女優」というパブリックイメージを、鮮やかなほど華麗にぶち壊すことにも成功したといえるのではないか。
高校卒業を目前にしたエイミー(ケイトリン・デバー)とモリー(ビーニー・フェルドスタイン)は、優等生であることを誇りに4年間を過ごし志望校にも合格したが、パーティー三昧の生活を送っていたはずの同級生たちも名門校や一流企業に進むことを知り、心中穏やかではいられなくなる。勉強のために犠牲にしてきた時間を一気に取り戻すべく、2人は呼ばれてもいない卒業パーティーへ繰り出すことを決意するのだが……。
今作の肝となるのは、102分という尺の中にガリ勉とパリピが過ごしたそれぞれの高校生活4年間を凝縮してみせたことにある。スクールカーストの上位にいようが下位にいようが、等しくかけがえのないひと時。いつの時代も若者はもがき苦しむということを、説明過多になることなく落とし込むことに成功している。
社会人になると、「学生時代だったら絶対にお近づきになることはなかった」と思えるタイプの人たちと関わる局面に何度となく出くわすが、いざ関わってみるとそんなに勢い込まずとも関係を構築できたりするものだ。今作の主人公2人が体現しているように、食わず嫌いのまま拒絶するのではなく自ら歩み寄ることで道が開けるものだということを、ワイルドはささやいているのではないか。
それにしても、脚本の妙なのだろうが、下ネタを躊躇することなく盛り込んだ笑いの要素もちりばめられている。主人公2人がタクシーを呼ぶと、運転手は副業にいそしむ校長……。そんな状況下に限って、車中で間違えてポルノを大音量で再生してしまう2人にエールをおくらずにはいられない。
(大塚史貴)