「宇宙からの来訪者が正義の味方とは限らない」ブライトバーン 恐怖の拡散者 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
宇宙からの来訪者が正義の味方とは限らない
藤子・F・不二雄のSF短編漫画で、正義感が強い平凡な男がある日突然スーパーマンのような力を手に入れ、やがて独善的に暴走していく様をブラックに描いた『カイケツ小池さん』『ウルトラ・スーパー・デラックスマン』という作品があるのだが、本作もまた一つの“ブラック・スーパーマン”。
藤子作品の方は風刺が込められているが、本作は…。
子宝に恵まれない農家のトリとカイル夫妻。
ある夜、森に何かが墜落。その何かの中に居た赤ん坊を我が子として育て…と、ここまでは『スーパーマン』。
が…
聡明な少年に成長したブランドン。
12歳を迎えた頃、納屋に隠してあった何かによって、目覚め始める。
正義の心ではなく、邪悪な心が…。
宇宙から地球にやって来た存在が、全て正義の味方というのは作り手側のご都合主義。
確かに邪悪な存在が居たって不思議ではない。
要は、地球にやって来たのが悟空ではなくベジータだったら…?(しかも頭に傷を負わず凶暴なまま成長したら…?)
最初はとてもいい子。
実の子ではないが、愛をたっぷり注ぎ、実の子同然。自慢の息子。
が、徐々に…。
父親への反抗や女性の裸体への興味など“普通の子”だったら思春期で済まされるのだが、ブランドンの場合は違う。
おぞましい人間の体内の写真、残酷な絵、まるで別人のような何処か様子がおかしい…。
ブランドンの周りで、不可解な出来事や事件が。
クラスメートの女子の部屋に突然現れる。
気味悪がったその女子の手を潰してしまう。
ヒステリックになった女子の母親や自分を注意した叔父を…。
一応『スーパーマン』の設定を基にしていながら、作品はホラータッチ。
ヒーロー作品あるあるのスーパーパワーを逆手に取って、ホラー演出にするとは!
突然目の前に現れたり、姿を消したり、そのスーパーパワーで人を恐怖に陥れる様は結構ゾクッとさせられる。
流血やグロ描写はかなり痛々しい。特に、クラスメートの女子の母親の眼球に蛍光灯の破片が突き刺さったシーンは、見てて参ったね…。
目を真っ赤に光らせ、不気味な自作マスクとマント姿はもう完全ホラー…。あのマークも…。
製作のジェームズ・ガンは陽気なヒーローチームを監督しながら、きっとそれとは真逆の邪悪ヒーローを産み出したかったのか、それともちょうどMCUをクビになった時期だからその腹いせに…?
それに応えたジャクソン・A・ダンの、可愛らしい少年から邪悪な存在へ変化していく達者な演技。
母親役エリザベス・バンクスも息子への愛と恐怖に揺れる複雑な熱演。
スーパーマンは出生の秘密を知って自分の力や運命を受け入れたが、邪悪な存在へ堕ちる危うさだってある。
思春期で反抗期。出生を聞かされ、「騙してたな!」と憎悪を爆発させるシーンは、本来はああいうもんじゃなかろうか。寧ろスーパーマンよりよっぽどリアルかも…?
一度赤く染まってしまった邪悪さは、我が身を心を蝕んでいく。
そんな息子の暴走をこの手で止めようとするカイルと、それでも息子を信じようとするトリ。
ブランドンへの愛情は本物。だから、愛しているからこそ、トリも息子を…。
悲劇的な物語でもある。
大抵こういう作品の場合、悲しくセンチメンタルに終わるのだが、戦慄で後味悪く…。
本作が“邪悪なスーパーマン誕生”なら、是非ともそれからどうなったかを見たい。
個人的に、エンディング曲に驚き!
てっきり今やってる日テレの白黒パンダのドラマのテーマ曲かと思ったら…、
ビリー・アイリッシュによる本作の主題歌だったのね。
近大様コメントありがとうございます。
F先生は先見の明がありましたよね。ウルトラ・スーパー・デラックスマン面白いです。個人の正義感ってなんでしょうか?まさかですがここにもそういう人がいます。違う意見に攻撃する人。ほっとけばいいのに。