「恐怖と悲しみの中二病少年 [各所修正]」ブライトバーン 恐怖の拡散者 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
恐怖と悲しみの中二病少年 [各所修正]
超人的な力を持つ少年が、もしも
正義ではなく悪に目覚めたら……という
普通のアメコミ映画とは真逆の設定を、
さらにアメコミ映画のフォーマットではなく
ホラー映画のフォーマットで描き切るという
ヒネリの利いた作品が登場。
製作は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』
シリーズのジェームズ・ガン、監督は、劇場作
2作目の新鋭デヴィッド・ヤロヴェスキー。
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例えば思春期の男子が「愚かな人類よ……
遂に我が紅き邪眼に秘めたる闇の力を
解放する時が到来したようだな――」的な
文や絵をノートに描いてるのを見つけたら、
普通はアーイタタタタアッチャアー (ノ∀`)な感じになる
だけで終わりだろうけど、本作はその子が
ホントに紅き邪眼に力(目からレーザー)
を秘めちゃってて、物理的な意味での
アー痛タタタァ!な事態になる流れ。
主人公ブランドンくんの超人パワーは、あの
DCコミック界の超大御所S氏とほとんど同等!
音速を上回る飛行能力! 車も投げ飛ばす怪力!
弾丸でも傷付かぬ体! 鉄をも貫くレーザーアイ!
少し血を流しただけでめっちゃアセるメンタル!
気になる女子に嫌われて割とヘコむメンタル!
とまさにあのS氏そっくりである。
しかし根が善人だったS氏に対し、
ブランドンはどうも邪悪な使命を帯びて地球
に遣わされたらしく、「世界を奪え」という
物騒な声がずっと頭の中で響いている。
トレードマークを犯行現場に残したり
育ての親を田舎者呼ばわりしたりと
なかなかの自意識過剰なクソガ……お子さま
っぷりだが、しつける立場の親や周りの
大人より自分が遥かに強いという自覚が
ある為、“自分は正しい”という考えや癇癪
に歯止めが効かず、幼稚な暴君まっしぐら。
にしても思春期での肉体的変化と共に
スーパーパワーが暴発する辺り、念力少女
ホラー『キャリー』に近しいものも感じますね。
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ホラーとしての出来だが、けっこう怖い。
演出的には“いきなりビックリ”な心臓に悪い
恐怖演出が主体で、個人的にはあまり好きな
種類の恐怖演出ではないのだけど、それでも
ビビらせるタイミングや小物の使い方
(赤い視界、車のライト、人感センサー等)
は結構巧みでビビらされた。
物言わず部屋の暗がりに立ってたりする所は
完全に幽霊ホラー……。元のアメコミ的設定
を忘れるほどに徹頭徹尾、欧米型幽霊ホラー
演出が用いられている点が面白い。
ヒイッ!と目を逸らしたくなるイタい描写も多々。
予告編でも出ていた“眼にガラス”のシーン以外
にも、お手々やおアゴがあんなことになったり
危険タックルで一発退場(タックルされた側が)
になったりとゴア描写はダイレクトでキツめ。
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ただ、予告で言う所の“ジャンルミックス”
というアイデア自体や出だしは新鮮だけど、
ホラー映画の作りとしてはオーソドックスで、
後半に行くに連れて展開に意外性が無く
なっていく点はちょっと残念だったかな。
終盤にもうひとヒネリ欲しかった気がする。
あと不満点ではないが、
前述の強烈なゴア描写だったりブランドン
にパパが性教育するシーンがあったり
(DC/MARVEL作品じゃまずやらない)、
PG12というレイティングは割とギリギリ
の線という気もします。家族で
観に行く場合はちょい注意かも。
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たいていの子どもって成長の過程で
「大人より自分は賢い」「自分には特別な
才能がある」と思いがちな時期を迎える訳で
(ブランドンの年頃は自分もそうだった
と思いますアーイタタタタアッチャアー(ノ∀`))、
ふつうは親や周囲と接する中で自分の
力量を理解したり「自分本位に振舞うと
相手を悲しませたり嫌われたりする」と、
善悪とか分別とか共感力とか、まあそう
いった類の物を学んでいくものだと思う。
だからブランドンのようにワガママが
”通り過ぎる”のはある意味じゃ悲劇な訳で、
父がどれだけ彼の行く末を案じて叱っても、
母がどれだけ彼を想って泣いて諭しても、
彼にはその想いが理解しきれない。
世界を支配できるような力が彼にはあるし、
人から恐怖や畏怖の念は向けられるだろう
けど、相手の痛みも悲しみも汲み取れない
ままの彼では、死んでしまった両親と
同じくらいに彼を愛してくれる人間は
もう現れないかもしれない。
そういう点では、本作は単純なホラー映画
ではなく、子どもを真人間に育てることの
難しさや、親が子育てに抱く恐怖が根底に
ある作品なんだろうね。
以上! 観て損ナシの3.5判定です。
<2019.11.15鑑賞>
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余談:
アメコミヒーロー×ホラーという組合せは、
思えばX-NEN新世代をホラー演出で描く
という作品『ニュー・ミュータンツ』の
コンセプトに近いけど、あちらは延期に
次ぐ延期で未だに陽の目を見ていない
(2020年4月公開予定だが、当初は2018年4月)。
順当に公開されればこっちが先に“ジャンル
ミックス”としてアピールできたのかも
しれないのにねえ。ちょっと気の毒。