劇場公開日 2023年3月10日

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「自分のためではなく、他人のため、世の中のため、未来のために信念を貫いて戦う男達」Winny kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自分のためではなく、他人のため、世の中のため、未来のために信念を貫いて戦う男達

2024年5月25日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

WOWOWの放送にて。
公開時、とても興味があったのにタイミングが合わず劇場で鑑賞できなかった作品。

早すぎた開発をしてしまった天才技術者と弁護団の闘いを実話に基づいて描いている。
当時かなりの騒動だったと記憶するが、事件の内容はあまり理解していなかったし、一審判決後7年間も闘い続けていたとは知らなかった。

純粋でお人好し、世間知らずのようで社会の問題点には着目している。そんな技術屋を東出昌大が素のように演じている。
エンドロール後に金子勇氏ご本人のインタビュー映像が映し出されると、〝そのまんま〟じゃないかと驚く。

ややぎこちない関西弁で三浦貴大が執念の弁護士 壇俊光を好演。
予告編でも使われていた「ナイフを作った人を罪に問えるか」という問は、いわゆる刑事訴訟の不文律のようなものだと思う。
壇弁護士が権力に立ち向かう原動力は、この不文律を脅かしてはならないという強い信念だろう。これを許せば開発者は萎縮し、新しいものは生まれなくなってしまう。
「この逮捕が間違っていないと胸を張って言えますか」毅然と検察を問い詰めるこのセリフも予告編に使われていた。

壇弁護士がこの闘争の手記を著しているらしいが、残念ながら未読。そこに書かれているのかどうか知らないが、もう一人の信念の男をこの映画は並行して描いている。
警察署での裏金作りが常態化していた愛媛県警を告発する仙波巡査部長、演じるは吉岡秀隆。
彼の原動力は、日夜懸命に公務を果たす警官たちの尊厳を守ることだ。
領収書偽造に協力する若い巡査に「そんな罪を犯した者が、1,000円の物を盗んだ人間を捕まえて調書がとれるのか」と、仙波は問う。

Winnyを使ったハッカーによって警察の情報が漏れたことが金子逮捕の裏側にあったのだが、愛媛県警の不正の証拠を世間に曝したのもまた、Winnyハッカーだった。
一見無関係な愛媛の騒動がWinnyで結びつくが、仙波と檀たちが交錯することはない。

マスコミによる偏った報道も描かれている。
実際に、Winnyが危険なソフトであるかのような報道が当時はされていたと思う。
仙波巡査部長が何者かからの脅しや嫌がらせに合うが、これも実際にあったのだろうか。

裁判で、金子はWinnyが匿名性を担保することで告発者を守ることができると説明する。
現代、ネット住民たちが匿名性を武器に根拠のない誹謗中傷を繰り返していることは、皮肉だ。

kazz