「いくつか気になる点はあるものの、当時の状況を真摯に描いた姿勢に好感が持てる一作」Winny yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
いくつか気になる点はあるものの、当時の状況を真摯に描いた姿勢に好感が持てる一作
2000年代初頭に社会問題にまで発展したファイル共有ソフト、「Winny」とその作者、金子勇氏に対する検察の捜査と公判の推移を描いた物語
。東出昌大扮する金子氏と三浦貴大扮する壇弁護士が物語の主軸となっているんだけど、そこに愛媛県警の仙波敏郎巡査長(吉岡秀隆)の挿話が、絡みそうでなかなか絡まないという微妙な形で差し挟まれてきます。
映像は小道具に至るまで、ノスタルジックさも残しつつ結構現代とも繋がっている、という過去感覚を絶妙なさじ加減で描いています。金子氏の家族も驚いたというほど役作りに励んだ東出昌大の、派手さはないが引き込まれる演技も良いけど、三浦貴大による壇弁護士の演技は、いかにも血気盛んかつ有能な若手弁護士らしい振る舞いで、非常に見事。特に金子氏に要所要所で振り回される時の困惑顔と絶妙な間は素晴らしいです。
雰囲気づくりを重視した映像の調子は全体的に調和がとれているんだけど、特に検察側の描写において、極端に照度を下げているのはやややり過ぎ感もありました。検察を「悪の組織」として強調したいんだろうけれども。
また金子氏はもちろん、多くの登場人物が実名で登場し、不祥事を起こした県警、府警もそのまま登場しているのに、報道機関名だけは架空の社名である点はやや違和感でした。このあたり、どういう意図や必然性があったのか、制作側の事情を知りたいところです。
法律事務所の若手に初歩的な質問をさせて、それにベテランが回答していく、という形でそれとなく当時のインターネット事情や著作権関係の法律知識を持ち合わせない観客に対して基礎情報を示す演出は親切ではあるんだけど、ちょっと若手の、特に女性職員の描き方が定型的で、制作側の認識の旧さを感じました。こうした描き方は現代に通じるように刷新して欲しいところでした。
いくつか気になる点はあったものの、派手な見せ場もないのに物語の推進力を維持する脚本と演出は見事だし、法廷劇としても見応えがある(というか率直に面白い)ので、十分に楽しめました。ただ「Winny」や「ファイル共有ソフト」、「2ちゃんねる」と言った当時のインターネット空間で鍵となる要素について全く前知識がないと、物語の導入部から理解が難しいと思うので、これらのキーワードを検索するなどしておくことをお勧めします。もっともWikiなどの包括的な情報源だと、物語の結末まで知ってしまう可能性が高いので、鑑賞の楽しみを取っておきたい人は、この点注意しましょう!