「現実を変える勇気を持とうという応援歌」シークレット・スーパースター しずるさんの映画レビュー(感想・評価)
現実を変える勇気を持とうという応援歌
歌手を夢見る少女が、動画サイトに歌を投稿した事から、世界が変わるシンデレラストーリー
なんかこういうの最近見たぞ…。「ハーツ・ビート・ラウド」は、まあ夢見がちな父親を現実に向き合わせる娘の話だったけど、やはり今時のムーブメントはネットから始まるのだなぁ。ほろ苦く終わったあちらに対して、大成功でハッピーエンドらしき本作は、お国柄という所かな。
…などと思っていたら、大分様子が違った。
まあ、少女のサクセスストーリーである事に間違いはないが、本作で強固に描かれているのは、インドに於ける、現代も根強い女性軽視の現実と、諦めず希望を持って、考え、行動し続ければ、その状況を変える事が出来るかも知れないという応援歌。
だから、彼女はサクセスしなければいけなかったのだ。授賞式とか、ご都合主義に思える部分も無くはないけど、この結末で正解。
インド映画は本当に、社会や現実の問題提起を、明るさと希望を持って、しんどくなりすぎないように描くのが上手い。
洋服やカジュアルな時計を身に付け、携帯やパソコンを扱い、アイドル番組に夢中になる。どこの国でも同じなのね、とウンウン頷きたくなる若者の姿。気が強く、小生意気で、でも賢くて、勇気があり、若々しい夢に溢れ、反発しながらも、母と友達のように仲好しな主人公のキャラクターが、現在のインドのリアルを感じさせる。
悪態をつき、ケンカしながらも、深い愛情を抱く家族への想い。構ってくる同級生男子への辛辣な撥ね付け。ままならない現実に、荷物を叩きつけ、壁を殴り蹴りつけて憤る姿。友情と恋の間の甘酸っぱい距離感。不満や不公平を感じながらも、親に従うしかない未成年の無力さ。
思春期のあるあるが間をおかず襲ってきて、思わず、頑張れ、元気出せ!と、拳を握らずにおれない。
プロデューサーに見出される経緯も、スキャンダルで業界に見放された彼の最後の手段という事で、それなりに理屈が通っていた。もっと夢物語かと思っていた。
主人公以外の登場人物のキャラクター付けも良い。気が弱く無学で夫に逆らえないが、最後は娘の夢を守る為毅然と立ち向かう母。ケンカもするけど無邪気に姉を慕い、家族の軋轢に心痛める幼い弟。妻と娘を見下しDVを働く父親の、徹底して悪者としての描かれ方も、諦めるな、立ち上がれ、の主題を際立たせるものなのだろう。
弱く愚かだと思っていた母の、娘を守る為の知られざる闘い。
本当のシークレット・スーパースターは誰だったのか?
涙目でジーンと余韻に浸っていたエンドロール。いい雰囲気をぶった切ってダンスでゴキゲンなオチを付けようとするのが相変わらずのインド映画っぷりで、思わず笑いを声に出してしまった。
あーあー、まったくもう。いや、まあ、そんな所も嫌いじゃないけど。