「単なる"スター誕生"と思いきや、母娘の感動ドラマ」シークレット・スーパースター Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
単なる"スター誕生"と思いきや、母娘の感動ドラマ
インド映画として歴代世界興収第3位であり、日本でも同日公開の「劇場版 ONE PIECE STAMPEDE」と「ライオン・キング」を抑えて"映画初日満足度ランキング(びあ)"で1位を獲得した。納得の出来栄えである。
こんな素晴らしい作品なのに、たった1週間限定公開のところも多く上映館が少ない。当然、拡大上映・再上映の声は出てくるだろう。
インドの国民的な俳優で、監督でもあるアーミル・カーンのプロデュース作品。本作では出演もしている。
シンガーソングライターを夢見る14歳の少女インシアが、顔を隠して歌った動画を、親にナイショで動画サイトにアップ。その歌のうまさから膨大な視聴アクセスを記録する。ハンドルネームが"シークレット・スーパースター"だったため社会現象となり、やがて有名プロデューサーからアプローチがかかる。
現実でも、動画投稿サイトからメジャーデビューした歌手は("ヤラセ"も含めて)、国内外を問わず存在する。ジャスティン・ビーバーがその代表格だろう。
映画としては、いわゆる"スター誕生"のサクセスストーリー。一見、シンデレラ・ストーリーのように聞こえるが、本作には伏線があって、展開はひと味もふた味も違う。
まず、少女インシアの母親は父親からDV(家庭内暴力)を受けている。そしてインドの庶民的な中流家庭がリアルに描かれていること。同時にインド社会の抱える"貧富の差"も描かれている。
女の子が生まれることを望まない伝統的な考え方と、男尊女卑で家庭内暴力を振るう父親。就学の機会を得られなかった母親は文盲で、インシアのために"これからの女性には学歴が必要"と考えている。
一方でインシアは、勉学への興味よりも音楽的な才能に溢れているという悲劇。
父親に見つからないように"ニカブ"(イスラム圏の女性が頭にかぶる服装)で目だけを出して歌う動画を撮るインシア。どれだけ人気を博しても、歌手になることは両親に告げられない。それどころか厳格な父親は、成績がふるわないインシアのギターの弦を切り、歌うことを禁じてしまう。
またそんなインシアの才能に惚れ込む音楽プロデューサー、シャクティ・クマール(アーミル・カーン)がクセモノ。かつての名声で活動しているものの、いまは音楽業界から疎まれている。さらに女性問題を抱え、元妻との離婚訴訟も進んでいる。世間的にはこちらも”オンナの敵”である。
ところがインシアはプロデューサーのクマールに、レコーディングと引き換えに母親を救ってほしいと依頼する....。ここからが感動的な大展開のはじまり。
単なる"スター誕生"と思いきや、母娘の感動ドラマという意外性がすごい。
少女インシア役には、女子アマレスリングを描いた「ダンガル きっと、つよくなる」(2018)で幼少期の主人公ギータを演じていたザイラー・ワシーム。意外な歌のうまさが光る。「ダンガル」もアーミル・カーンの映画だったが、男女平等の考え方が急速に進む現代インドの女性を応援するという意味で本作と共通するところがある。
(2019/8/11/新宿ピカデリー/シネスコ/字幕:藤井美佳)