「アンビエントミュージックな序盤」左様なら ニックルさんの映画レビュー(感想・評価)
アンビエントミュージックな序盤
教室。とにかく、クラスメイトたちの会話が等価に捉えられる。悪意も善良さも等しく存在しているのだ。そんな中からメインキャスト2人の芝居が立ち上がってくる。その浮かび上がらせていく演出が見事だ。少しずつ、少しずつクラスメートたちの中から劇としてメイン2人を切り取っていく。その存在のさせ方はSNS世代の感覚なんだろうか。
会話の等価性という意味で近いフォーマットを持っているのは是枝裕和監督だと思うが、それよりももっと細波のようにキャラクターを捉えていく。最近の日本映画は人間の存在の分からなさを撮っているように思うが、この監督も映画なんて人の一面を観てるに過ぎないという疑いを持っているような感じがした。
クラスメイトのアヤの死をきっかけに、一気に主人公ユキの贖罪意識を巡る話になっていくが、消してあざとくなくて、細波の中からユキの抱える痛みが薄霧のように立ち上がってくる。
スタイルとして類似しているエリック・ロメールの映画におけるバカンスという世界観とはひとつ違った意味で、彼女たちのモラトリアムが捕らえられているように思う。
新人監督でこのビジュアル感覚はなかなかできないという気がする。
この企画の作品だからといって一様に貶してるだけの人がいるが、一体何なんだろうと思う。
その後の展開においても、アヤをハブった側の生徒たちにも贖罪的な意識がもしかしたらあるのかも知れない、ないのかも知れないという風な距離で演出が施されているように思った。決定的な出来事を起こさないことで、だれた日常の裏にある何かを描こうとしている。
欲を言えばラストでもう一つ、アヤの死をめぐる秘密が一つ明らかになって、それでユキが次の道を歩けるようになるみたいな展開があって良いのかという気はする。彼氏っぽくなる男の子の父親の死をアヤの死にぶつけるラストは悪くないのだけど、ラストとしては足りない感じがする。