「まるでフランス映画のような静けさと」ジョナサン ふたつの顔の男 asicaさんの映画レビュー(感想・評価)
まるでフランス映画のような静けさと
二つの人格を丁寧に丁寧に描く手法は、一人の演者がやってるとは思えないくらいで、まるで別人にしか見えない。
ここまで違うと、彼女が、
顔は全く同じだが違う人間だろうと感じるのではないかと思う程、ヘアスタイルだけでなく仕草も趣向も生活スタイルも全くの別人。
多重人格
とは言え よくある虐待から起こる後天的なものと違い、赤ん坊の時からの先天性の多重人格。
しかも、それを精神科医が脳をコントロールすべく耳の後ろに昼と夜の棲み分けのための機械を埋め込んで、そしてそれはもう一人のかつていた誰かを消した過去にも繋がる。
昼間しか知らない男と
夜しか知らない男
この部分は非常にSFなのにも関わらず、予告など一切の情報なしに見た私はSFだった事すら、あまり印象に残らないくらいに ひと の精神面を深く描くもののように感じて見終えた。
精神科の女医は、彼をコントロールする機器を埋め、夜の彼の声を聞くために睡眠時間を削り続けた。
彼女にとって彼らは言わば治験者であり、ジョナサンは(たぶんジョンも)彼女を母と慕い感謝し更に医師として完全に身を委ねているが、事実としては実験材料であるのは間違いない。
そしてそれは彼女の子どもが彼女のそういう所業を許されざるもの と感じている事からも 見て取れる。
そういう点は非常に宗教的と言っていい。
映画の素材として昼夜に分けた事が面白いのだが
出来れば日にち単位にしてあげたら良かったのに、と思ってしまう(そうするとジョナサンは会社に毎日出勤出来ないけれど)
ジョンに別れを強要したジョナサンがその彼女と付き合う
ってこれはもう
別人格なんだからめちゃくちゃ怒るのはジョナサンも御承知
だからこそ言い出せないんだけれど
彼女と会ってる時に、彼が突然 やって来てドアをノックし見つかってしまうのではないかと 思うくらいに
別の彼は確固として存在した。ベッドが二つ必要なほどに。
ジョナサンが存在している時にジョンは存在しない。
ビデオ越しに時間差でする言い争いは
見てる者には臨場感を持って編集されまるで二人存在するかのようだ。
お互いの自我が 成長とともに範囲を広げ
女医が たぶん ジョンの人間性のほうにより惹かれている。
それを感じ取るジョナサンの不安
そしてラスト
交互に激しく入れ替わり
運転手はもはや 何がなんだかわかるはずもなくとまどう
その姿を見る側も混乱し 戸惑い
迷いなく立つ彼の口から出る名前に 驚愕し
第三の人物ではないか?
いやいや ジョナサンをも取り込んだのか?
かつて消された彼か?
と素直に 結末の衝撃をすら 受け入れ難いのである。