「遊び心のあるクラシック曲を聴いているような感覚の作品」ジョナサン ふたつの顔の男 aoironomeganeさんの映画レビュー(感想・評価)
遊び心のあるクラシック曲を聴いているような感覚の作品
まずアンセル・エルゴートが巧い。ここまでの嵌まり役はいないんじゃないかって思わせるほどだが、なぜか危うく魅せられるのもまんまと演出に乗せられているのかもしれない。
「サーチ」「ギルティ」と並ぶ魅せる映画として評価が高かったので、すこし期待して観ましたが、たしかに面白い!と感じた。
主人公ジョナサンは透明感があり神秘的な印象を与えるが、規則正しくきれい好きでテーブルの配置や食事もそつがない。しかしラストへ向けてそれがどことなくぎこちなく歪に見えてくる。ジョンとジョナサンを外見で分けるのが髪型だが、ジョンのときはボサボサで乱雑、ジョナサンのときはきれいに整い、しっかりブラシのかかった状態だ。しかしここも整っていれば整っているほどに不自然さにあふれ、最初はきれいな感覚を抱くが、観ているうちにそれが苦しくなってくる。ジョンのボサボサ頭の方が自然体に見える。ラストではジョナサンが「消えて」しまうわけだが、不自然さからの解放としての捉え方をすれば、それでよかったように思う。
人間はどこかズルくていい加減で時にウソをつくのだが、だから人間のよさも同時に併せ持つことができる。それを正直に実行していたのがジョンで、それを隠すためにルールと規則正しさに自分を見出していたのだが、本当はただ蓋をしていただけだったのはジョナサン自身が一番わかっていた。だからこそ、エレナへほんとうの気持ちを言えた時の感慨深さは言い知れぬものだったのではないだろうか。
また一方ジョンは自然体で自由奔放に生きているように見えるが、その実心の奥底では苦しみや葛藤に悩み、鬱になっていく。しかしながら、それは人間であればこその悩みだとするメッセージが心に響いた。それこそが自然な姿と言っているように聞こえてきたのはぼくだけなのか。