「スミスよスミスを越えて行け [IMAX3DHFR評含む]」ジェミニマン 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
スミスよスミスを越えて行け [IMAX3DHFR評含む]
『ライフ・オブ・パイ』のアン・リー監督、
『バッドボーイズ』のJ・ブラッカイマー製作。
そして主演はウィル・スミスとフルCG若スミス!
政府から暗殺任務を請け負う凄腕の殺し屋が、
自身の若いクローンに命を狙われながらも、
クローン製造に関わる組織”ジェミニ”の謎に迫る。
ジャッキー・チェン、ブルース・ウィリス、
シュワちゃん、そしてJCVD...スターが
もう一人の自分と共演する現象にはそろそろ
学術的呼称を付けて良い頃だと思うのだけど、
それはさておきレビューします。
なお、今回は有難いことに『IMAX3D+HFR』
という上映形態で鑑賞することができた。
監督自身が非常に拘った最新の上映形態
なので、これについては【余談】に詳細
を書こうと思う。初めに書いてしまうが、
恐らくこれで観るのと観ないのとでは、
スコアで0.5~1.0くらいの差が出る。
...
見所はやっぱりアクション!
老スミス対若スミスの激しい格闘戦は
片方がフルCGIとは信じられない出来だし、
クライマックスで多数の敵や謎の強敵を仲間
との連携で撃ち倒すガンアクションがクール。
中盤、コロンビアのカラフルな街並みで
繰り広げられるアクロバティックな
バイクアクションは本作のハイライト!
高速で疾走しながらの銃撃戦に加えて「バイクで
そんなん出来んの!?」と驚く格闘術(バイク・
フーとでも呼ぶのか)で息をも吐かせぬ迫力。
後述の3D+HFRの威力が遺憾無く
発揮されたアクションだったとも思う。
...
ドラマの肝は老スミスと若スミスの関係性。
長年の稼業で心を磨り減らした主人公ヘンリーは、
これまで行った殺しや、人並みの幸せを捨てて
生きてきた人生への後悔に駆られている。
一方、クローンであるジュニアは、自身の育ての
親である”ジェミニ”設立者ヴェリスを父のように
慕ってきたが、本当の"父親"を知り、初めて
自分の存在に疑問を抱くようになる。
ヘンリーはジュニアを殺すことを躊躇する。
そして殺人機械として生きてきた自分の
苦しみをジュニアに味わわせないよう、
彼にその気持ちをどうにか伝えようとする。
俺と同じ轍を踏むんじゃない、
俺が掴めなかった分の幸せをお前は掴め。
そう訴える彼の姿は、遺伝上ではなく
精神的にも本当の父親のようだった。
ヘンリーは自身の人生を見つめ直し、
ジュニアは対立しながらもその心を
受け継いでゆく、その父子の姿が熱い。
『ダイハード4.0』のM・E・ウィンステッド嬢も
キュートな顔して格闘も銃撃もバシッと決めるし、
ヒゲ男爵(バロン)ことベネディクト・ウォンも
ユーモラスで良い感じ。
...
けどまあ、
クローンではなく父と子という視点のドラマ
はやや新しいと思うけど、”自分対自分”とか
”クローンを用いた陰謀”といったそもそもの
アイデアは使い古されているし、展開にも
特に大きなサプライズは無く(終盤も含め)、
サスペンス的な面白みはかなり薄め。
ヘンリーも凄腕のベテラン殺し屋にしては
ナイーヴ過ぎるし、仇敵ヴェリスも性格的
にはステレオタイプで、ヘンリー追跡にも
肝心の陰謀にも穴が多くて、どうもね。
サスペンスが薄くてもアクションが物凄ければ
そこはまぁ僕は満足だが、本作は「サスペンス
なんてどうでもいいほどアクション凄い!」
というまでのアクションの量も濃さも無いかな。
...
アン・リーは近作でも技術的にチャレンジングな
ことをやっているのだけど、その技術が物語より
前面に出てきてしまってるようなきらいがあって、
個人的には最近の彼の作品は苦手だったりする。
物凄い技術なのは分かるが……技術はあくまで
物語を伝える上で効果的であるべきと個人的
には思うし、たとえ最適な環境でなくても
魅了させる物語にするべきじゃないかしら。
大多数の観客はそんな贅沢な環境では
観られないんだから。
(僕の故郷なんて映画館はおろか
レンタル店すら満足にない山奥だ)
CGIの若スミスは完全にいち登場人物
としてドラマに寄与していたので良いし、
IMAX3D+HFR鑑賞でその凄さは伝わったので
ここでの判定は3.5とするが、ちょっと色々と
考えてしまう出来でした。
<2019.10.26鑑賞>
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長い余談1;
今回の作品は 4K3D120fpsという
最新の撮影形態で撮られているので、
この説明と実際の所感を書いてみる。
まず、4Kは従来の解像度の4倍。
従来の画素数は縦1080 x 横2048だが、
4Kの場合は縦2160x横4096となる。
横の画素数が約4000なので4K(キロ)と呼び、
そのため従来型は"2K"と呼ばれるようになった。
端的に言えば「画を描く粒が細かくなるので
これまでより画がリアルに見える」というワケ。
3D120fpsについて。
fpsとは frame per sec、つまり
1秒辺りのコマ(フレーム)数のこと。
パラパラマンガのように、コマが多ければ多い
ほど動作が滑らか(≒リアル)に見えるわけだ。
通常の映画は24コマ/秒で、
3D映画の場合は左右の目に入る画をそれぞれ
用意するので1秒間に48枚の画が必要となる。
だが今回は120コマ/秒とのこと。
左右合わせて120か左右それぞれ合わせて240コマ
かは、ネット情報ではハッキリ分からなかったが、
「アン・リーの望む3D120fps上映が行える
映画館は殆ど無く60fps上映にした」という旨の
情報を見かけたので、恐らく撮影は240コマと推察。
まとめると、
「従来の3D映画より4倍キメ細やか、5倍滑らか」。
実際に肉眼で見ている映像に近付いた分、
映像に臨場感が出る、という触れ込み。
ただ、監督が意図した4K3D120fpsで上映できる
映画館は非常に少なく、日本全国でも3館のみ。
今回自分が鑑賞したのは3D60fps上映なので
従来より2.5倍は滑らか。2K/4Kどちらだったか
は劇場案内等では確認できず(精緻には見えた)。
で、実際どう感じたかというとーーかなりスゴイ。
主観視点、疾走するバイク、ミニガン乱射や爆炎
など激しいアクションでは、ギョッとのけぞる
ほどの、従来作とは段違いの臨場感を覚えた。
動きがヌルヌルだが『ホビット』(IMAX3D48fps)の
時よりも違和感を感じなかったのは、フレーム数が
見慣れたテレビ(60コマ/秒)に近いからかもしれない。
スマホやガラスの照り返しが従来の3D映画の
ようにギラつかずにリアルに見える点も面白い。
何より水中の映像の生っぽさには度肝を抜かれる。
水中の映像は奥行きを感じ易いので3Dとの相性は
元々良かったと思うが、これが更にリアル且つ
美しく見えるのである。
ジェームズ・キャメロンが現在撮影中の『アバター』
新作も本作に近い撮影形態が撮られていると予想
されている。そして『アバター』続編は水中が
舞台との噂がある。そのどちらも実現したら、
『アバター』を更に上回るとんでもない映像体験
になるかも!と、今から一人で勝手に興奮している。
余談2:
増殖するスミス……
エージェント・スミス……
(黙って。)