キーパー ある兵士の奇跡 : 特集
英国発の掘り出し物的良作!業界で静かに話題沸騰中…
あなたの人生を強く揺り動かす、知られざる感動の実話
映画業界内でふつふつと話題を集めている作品がある。10月23日から公開される「キーパー ある兵士の奇跡」だ。
鑑賞した人に話を聞くと、誰も彼もが「感動した」と熱心に語ってくれる。世間ではまだあまり知られていないが、見れば必ず心の琴線に触れる良作だ。
物語の舞台は第二次世界大戦後のイギリス。元ナチス兵でありながら、敵国イギリスで国民的ヒーローとなった実在のサッカー選手バート・トラウトマンの半生を描いている。
サッカーを知らなくとも存分に楽しめる。なぜならこれはサッカー映画ではなく、あなたの人生を強く揺り動かす“知られざる感動の実話”だからだ。
この特集では、作品への評価やレビュー、物語やテーマなどの見どころ、そして「こんな映画が好きな人にオススメ」という手引きを紹介していく。
【映画業界で高評価連発】
まだあまり知られていないけど、優れた感動作
○各国の映画祭で観客賞を受賞=観客に支持された作品
誤解を恐れずに言うと、本作は「まだ日本ではマイナーだけど、素晴らしい作品」のカテゴリーである。ゆくゆく「必見の名作」として映画ファンに語り継がれる、そんな一作。
バイエルン映画祭2019で最優秀作品賞を受賞したほか、サンフランシスコ・ユダヤ映画祭2019、フランスのシネ・サン・フロンティア映画祭など、各国の10の映画祭で観客賞に輝いている。さらに、辛口で知られる映画批評サイト「Rotten Tomatoes」では批評家スコア95%支持、観客スコア100%支持(ともに2019年8月2日時点)を獲得した。それはつまり批評家だけではなく、観客の心にもまっすぐ届いた映画ということの証左だ。
物語、テーマ、俳優陣の演技、音楽、サッカーシーンの描写など、どこをとっても非常に優れている。イギリス映画らしい、皮肉が入り交じるチャーミングな会話劇も素敵だ。例えば「アバウト・タイム 愛おしい時間について」などを見た時と同じような感情が、あなたの胸に宿るはず。
○日本の映画界でも話題沸騰中…熱いコメントが続々到着
では、実際に鑑賞した人のコメントを紹介しよう。彼らの言葉が、本作の感動を何よりも雄弁に示している。
山田洋次(映画監督)
「憎しみあう国民同士の和解はむつかしい。しかしそれを乗り越えるのはどんなに美しいことかを、この作品は感動的かつユーモラスに伝えてくれる」
小島伸幸(元サッカー日本代表ゴールキーパー/現ザスパクサツ群馬GKコーチ)
「戦争という不幸な出来事でできた大きなわだかまりを人々がスポーツの力を通じて乗り越えていく過程が見えました。改めてスポーツが人々に与える希望や力を感じました」
井上順(俳優・エンタテイナー)
「“ブーイング(非難)からアプローズ(喝采)へ”。戦争という大きな壁の隙間から射し込むひと筋の光。不屈の精神がたぐりよせた愛と希望のストーリー。前向きに生きる力をもらった」
今日マチ子(漫画家)
「誰もが傷ついていた時代。撃ち込まれ続けるサッカーボール。分断と和解の向こう側が私たちのゴールだ。罪と憎しみを受け止め、喝采に変えた奇跡が心を打つ」
【物語と見どころ】戦争後の英独をつないだ奇跡
敵対ではなく共感を…思いはあなたの人生を揺り動かす
[実話]戦争の傷が残る英国で、サッカー選手として活躍した元ナチス兵を描く
1945年、ナチス・ドイツ兵のトラウトマンはイギリス軍の捕虜となった。収容所でタバコを賭けてサッカー(PK戦)をしていた折に、地元サッカーチームの監督ジャックにスカウトされる。トラウトマンは、群を抜いて才能のあるゴールキーパーだったのだ。
地元チームでは「ドイツ人とサッカーができるか」と非難の声が上がったが、彼の活躍によりチームは破竹の勢いで勝ち星を積み上げていく。そして、ついには名門サッカークラブのマンチェスター・シティFC(以下、マンC)から引き抜きの声がかかるまでになった。
マンCに入団した後に待っていたのは、想像を絶する誹謗中傷。なぜなら街には、ユダヤ人が多く住んでいたからだ。それでもトラウトマンは誠実にゴールを守り抜き、やがてイギリスの国民的英雄として敬愛されるようになった。
愛する妻マーガレットとの間には、子宝に恵まれた。幸福と栄光の頂点。しかし彼には、ナチスだったこと以上に、打ち明けることなど到底できない“過去”があった。そしてその過去は、思わぬ運命を引き寄せてしまう――。
[主人公]サッカーファンも知らない?尊敬を集めた偉大なバート・トラウトマン
日本ではおそらく、コアなマンCファンくらいしか、トラウトマンの名を知らないのではないか。しかし、世界でも類を見ない偉大な人物であることは強調しておきたい。
ドイツ人、しかも元ナチスでありながら、敵国イギリスで英雄になった男――。本編を見れば「これが実話なのか」と驚かずにはいられないほど、その生涯は波瀾万丈だ。
1923年にドイツ・ブレーメンで生まれたトラウトマン。40年から空軍兵として第二次世界大戦へ行き、鉄十字勲章など5個の勲章を得た。イギリス軍の捕虜となり同国ランカシャー州の収容所で敗戦の時を迎えた後、48年に釈放。地元のセント・ヘレンズ・タウンAFCを経て加入したマンCでは500試合以上に出場し、レジェンドと呼ぶにふさわしい活躍を見せた。
64年に引退した後、監督へと転身。そして97年にドイツ連邦共和国功労勲章を、2004年に大英帝国勲章を受賞した。英独双方の勲章を得た者として、歴史にその名を刻んでいる。
[見どころ]誰かの痛みに寄り添い、過ちを許すことを語る深いドラマ性
「愛を読むひと」などのドイツ人俳優デビッド・クロスが主演し、誠実だがどこか影のあるトラウトマンを演じきった。妻マーガレット役は、「サンシャイン 歌声が響く街」のフレイア・メーバーが担当。ほか「ハリー・ポッター」シリーズのダドリー役で知られるハリー・メリング(これまた嫌味な軍曹役!)や、ケン・ローチ監督作常連のジョン・ヘンショウらが脇を固め、充実の布陣で上質な物語を紡いでいる。
本作はトラウトマンがサッカー選手として栄光をつかむサクセスストーリーの一方で、繰り返し「誰かの痛みに寄り添い、過ちを許すこと」の大切さを観客に投げかける。それは、現代に生きる私たちにとって、非常に重要なメッセージでもある。
終戦直後のイギリスで、元ナチスであるトラウトマンへの憎悪は半端ではなかっただろう。ナチスは大切な人たちを奪った怪物。ドイツ人は信用しない。出会った当初、マーガレットは面と向かってそう罵倒し、トラウトマンは「僕は怪物じゃない」と沈痛につぶやく。なぜなら彼自身も、戦争で深い心の傷を負っているからだ。
英語の定形表現に「誰かの靴を履く」というものがある。「他人の気持ちに思いを馳せてみる」という意味だ。最初は蔑視していた人々も、やがてトラウトマンへの偏見じみた態度を変化させていく。
そうさせたのは、彼のサッカー選手としての実力か? 人柄か? それとも――。周囲の人々の心の動きを、つぶさに観察してみてほしい。そこにあるドラマが、あなたの人生を揺り動かすような感動をもたらすはずだ。
【鑑賞前のガイドマップ】
こんな作品が好きな人には特にオススメ!
本作の最大の特徴は、感動、ラブストーリー、実話、スポーツものと、いくつかのジャンルがハイレベルに融合している点。読者の皆様がそんな魅力を最大限に楽しめるよう、「この作品が好きな人はここに注目」というガイドを作成した。
○「ジョジョ・ラビット」など珠玉の感動作が好きな人へ
10歳のドイツ人少年と空想上のヒトラーの交流を描いた「ジョジョ・ラビット」、ラグビーを通じてアパルトヘイト撤廃に挑む「インビクタス 負けざる者たち」など。これらの作品が好きな人は、本作の胸を打つヒューマンドラマや、価値観を問うテーマ性に注目してもらいたい。
○「アバウト・タイム」などチャーミングなラブストーリーが好きな人へ
タイムトラベルを繰り返す青年が本当の愛や幸せを知る「アバウト・タイム 愛おしい時間について」、ALSの天才科学者とその妻の愛情を描いた「博士と彼女のセオリー」など。これらの作品が好きな人は、本作のくすりとさせられる英国的ユーモア、愛くるしい夫婦愛に注目してもらいたい。
○「ウィンストン・チャーチル」など迫真の実話物が好きな人へ
ゲイリー・オールドマンがイギリスの政治家を迫真の再現性で演じきった「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」、NASAの3人の黒人系女性スタッフによる逸話を描いた「ドリーム」など。これらの作品が好きな人は、本作の“実話とは思えないほどドラマチックな展開”に注目してもらいたい。
○「しあわせの隠れ場所」などハートフルなスポーツものが好きな人へ
アメフト選手マイケル・オアーの激動の半生を描いた「しあわせの隠れ場所」、史上初の黒人メジャーリーガーの半生を追った「42 世界を変えた男」など。これらの作品が好きな人は、本作のスポーツ描写のクオリティはもちろん、スポーツを通じて道を切り拓く物語に注目してもらいたい。