「絶望の闇」レ・ミゼラブル コージィ日本犬さんの映画レビュー(感想・評価)
絶望の闇
闇が深い。
小説「レ・ミゼラブル(あゝ無情)」の舞台として知られ、現在は犯罪多発地区の一部となっているパリ郊外のスラム街の現在を描く。
小説は愛に生きる人々のすれ違いと時代が生んだ不幸を描いたが、ここには一切愛がない。
権力と暴力を振りかざす悪徳警察官、市長とは名ばかりのチンピラの元締め、元ギャングのボスでモスクの運営者、粗暴で無学なサーカス団、そしてすべての大人に虐げられる子供たち…
移民と低所得層だけが暮らす街の混沌で、悪意と暴力と愚者しかない無情。
小説「レ・ミゼラブル」の六月暴動に相当する暴動シーンがあるが、それはそこに生きる者たちの「怒り」そのものだった。
創作であり、実際に起きた事件ではないが、ラジ・リ監督の実体験がベースになっているということで、一定のリアリティを感じた。
多様性を認めた理知的に話し合いで解決したいと考える警察官ステファン(ポマード)の存在はおそらく監督の現身(うつしみ)であって救いであると感じた。
それと同時に、彼であってもどうにもならないほど、すでに人にも街にも絶望するしかないことが無残であった。
圧倒されるとともに、問題提起のみで解決方法がない現実の重さがのしかかり、陰鬱な気持ちになった。
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