「オスカーおめでとうございます」パラサイト 半地下の家族 かぴ腹さんの映画レビュー(感想・評価)
オスカーおめでとうございます
格差社会などという社会問題にあまり興味がなかったので最初は観る気がなかったがオスカーを取ったというので見に行った。パルムドールも取っていたとは知らなかった。
設定が公になっていたので、それがセットされるまでは退屈。だまされる家族の間抜け具合には閉口した。ついでを言うと家の主が留守なのをいいことに羽目を外すと急に帰ってきたり、というのはありきたり。まあ、話を作るのにはしかたがないのだけれど。もう一つ言うなら前の家政婦を家に入れることなどあり得ない。
ウンザリしていたところだが、ドタバタが起き始めて格差の描き方に興味を持った。知力、とくに悪知恵は上流階級より優れている。美術のスキルも。人間力としてはなんの遜色もない半地下家族だが、かたやソファの上で情事をしているなか、テーブルの下にもぐりこんで身動き一つとれない。そして「臭(にお)い違う」と。これがなにか努力の及ばない格差の絶望を象徴するかのようだった。寄生生活に満足げだった父親もそれがきっかけで、とうとう「リスペクト」を刺してしまう。映画で伝わらない「臭(にお)い」を使うとはとてもおもしろい着眼点だと思った。
もっとも共感したのは頭を石で殴られたあと、気がついたら「警察とは思えない警察官と医者とは思えない医者が目の前にいた」と述べるところ。警察官は時として命をかける仕事。医者は患者の命にかかわる仕事。そういう緊迫感の持ち合わせていない警官や医者は、なるほど日本でも見受けられる。かつてこれらの職業から感じられた威厳が感じられない、ただの勤め人に見える。警官や医者という定職に就けるのは、水害で家を失い避難者が出るなか、贅沢な子供の誕生祝いができる緊迫感のない家庭の子女だからだと言いたいのかもしれない。そしてそのような社会に対しても危機感が稀薄であるということだろう。
出血、刺殺などの凄惨なシーン無感情を無感情に表現しているのはスペイン映画を思い起こさせた。あと、ヨーロッパ映画によく見られる青いフィルターがかかったようなモノトーンの画面。とても美しかった。だが、韓国映画のなかで一番だったかというと、そうは思えない。イル・マーレの衝撃を超したとは思えなかった。「格差」という問題は韓国では切実で、監督はそれを描きたかったのだろうけれど、世界的なこの案件で「賞とり」を意識していなかったとは思えない。「賞とり」が悪いわけではないが、やはり純粋にいい映画を観たいと思っている観客からすればそれが見え隠れすると興ざめする。エンドロールにハングルがまったくなかったのはその現れかとちょっと寂しかった。「外国語映画『初』のオスカー」の栄誉も、世が世ならニュー・シネマ・パラダイスでも不思議はなかったと信じている。
この作品の受賞にケチをつけるわけではないが、外国語映画が作品賞をとることになった大きな要因はハリウッド映画の凋落だと思う。今回のノミネート作品を見たわけではないが、私が子供の頃のような圧倒的な作品は見受けられなくなった。ネタ切れの状態でかなり前からリメイクが幅をきかせるようになっているし、あとはディズニーのCGおとぎ話ばかりだ。オスカーの権威を維持するためにも他の言語の映画に目を向けざるをえなかったということだろう。
特に日本映画にオスカーをとって欲しいわけではないし、芸術に国籍をつけるのはナンセンスだと思うが、映画作りでは韓国に水をあけられた感が否めない。その要因に、日本での漫画、アニメの成功があると私は考えている。私が映画を見始めた頃は日本映画が低迷していた時期だった。映画と言えばハリウッド映画。その規模の大きさは言うまでもなく、日本映画はデレビで十分。映画館まで行って観る必要性を感じなかった。白人に比べて見劣りする日本人。ヒーローや色男としては勝てない。スポーツも東京オリンピック以降、柔道と体操以外では外国に勝てる競技はわずかだった。そのコンプレックスを無視できる世界が漫画やアニメであった。「絵の中なら世界一になれる」その絵の世界に埋没したため、「実写」が育たなかったと感じてしまう。
途中、今村昌平、北野作品などが注目された時期もあったが、それよりも世界から注目されたのはアニメだった。「日本はアニメの国」と外国からレッテルを貼られた嫌いがあり、それで世界からの評価は良し、としたところが無きにしも非ず、という印象を持つ。
映画はドキュメンタリーもないわけではないが、本来夢物語。でも、あんまり現実離れし過ぎると共感できなくなる。かつてありえない話を「漫画じゃあるまし」と卑下したように。かつてのハリウッド映画は圧倒的な物量で夢物語を「リアルに」作り上げていた。戦争を描くのであれば本当の家を焼いたり、本当のヘリコプターを飛ばしたり。ところがCGを手に入れてから、ハリウッドは「実写」で漫画を作り始めてしまった。この映画がはじまる前のトレーラーで動物がまるで人間のような表情をする映像が映し出されていた。どう見ても「つくりもの」である。一気に興ざめである。そんな犬がハリソン・フォードと共演するのだからやるせない。かつて「名犬ラッシー」など、CGなど使わない動物映画もたくさんの感動を呼んだのに。日本と同じ罠にはまっている。
韓国のアニメがどうなのかはよくわからないが、これだけ韓流ドラマや映画が日本に入ってきてるのに対してついぞ聞いたことがないことを考えると、それほどではないと推測できる。そのぶん?かどうかわからないが、「実写」に力を入れているのだと思う。韓流ドラマを見れば「家族」を台本に描くことはほとんどmustのようだ。これらを観てから同じテーマの是枝作品を観ても霞んでしまう。この作品そのものの感想はともかく、監督と関係者に受賞おめでとうと素直に言いたい気持ちになった。
最後に、あの事件で執行猶予がつくなら韓国の司法は病んでいる。
あと、パンフレットでしきりに監督が「ネタバレ」しないように読者に懇願していたが、そんなに大したネタだったとは思えない。ちゃんとネタバレ警告つけますけど。