「「なんじゃぁ。そりゃぁ」的なちゃぶ台返しをしたくなった一篇」パラサイト 半地下の家族 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
「なんじゃぁ。そりゃぁ」的なちゃぶ台返しをしたくなった一篇
監督はポン・ジュノ。
デビュー作『ほえる犬は噛まない』から『母なる証明』までは欠かさず観たが、どうにも好きになれない監督だなぁ・・・と思うことしきりなのですが。
ソウル(かどこかの大都市)に暮らすキム一家。
両親と息子・娘という四人家族。
暮らしているのは、下町。
文字通りの下町。
彼らが暮らすのは、坂の下の半地下の一室。
だが、ある日、息子の幼馴染が、海外留学するので後釜として、坂の上の金持ち一家の娘の英語家庭教師をしてほしい、という話が転がり込み、ひょんなことから妹も父も母もその一家で雇われるようになる・・・
というところから始まる物語で、ひょんなこととはいったものの、父・母の就職には悪知恵も働いている。
で、この序盤(といっても40分ぐらいあるか)は、いわゆる「なりすまし」映画で、なりすまし映画というのは、個人的に大好きな『街の灯』『独裁者』『トッツィー』に至るまで枚挙にない。
つまり、「伝統的」な映画のジャンルなわけで、このジャンルでは、この後の展開はおおよそ決まっており、なりすましたことがバレるかバレないか、バレることに対して主人公たちがどのような葛藤があるのか、バレた時にどのように落とし前をつけるのか・・・というあたりである。
この展開には図らずも善と悪の葛藤が盛り込まれており(いかなる理由であっても、なりすますことに主人公は葛藤を抱える)、そこがドラマチックなのだが、この映画では、そこんところをすっ飛ばしている。
結局、彼らの正体(つまり本体。アイデンティティともいえる)を見抜くのが、同じ立場の人間であり、なりすまされた側(こんな言い方があるかどうかは不明だが)は、なんだかイヤな気がする(においがする)んだとしか言わせていない。
どうにもこうにも、ここいらあたりの善悪観念というか理念というかが曖昧かついい加減なので、「もうひとつの家族」が登場してからが、まるで面白くない。
どうなるのかしらん・・・とは思いつつも、「どうでもいいよ」的な感じになって、クライマックスの修羅場に至っては、「またも、修羅場!(中盤の繰り返し)」と思ってしまい、鼻白む思いでした。
個人的には、大豪雨により「半地下一家」の部屋が水没するとともに、地響きを立てて丘の上の豪邸が崩れ落ち、半地下一家も富豪一家も、もうひとつの家族も大切なひとが生き埋めになって・・・ぐらいの形而上的な展開が欲しかったところ。
(そんなこと、ありえない・・・ぐらいの展開がないと落ち着きが悪い、そう感じたわけで)。
個人的には、ジャンル映画の枠を超えようとしてがジャンル映画の定石も周到出来ず、かつ予想されたカタストロフィに落ち着いて、さらに、お尻がこそばゆい親子の情愛に落ち着く・・・という、ま、観ているうちは面白かったけど、「なんじゃぁ。そりゃぁ」的なちゃぶ台返しをしたくなった一篇でした。