「計画よりも無計画」パラサイト 半地下の家族 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
計画よりも無計画
富裕層と貧困層の格差を描いた秀作であることは間違いない。それは“臭い”であったり“雨”であったり、“地下”であったり、注意深く比較しないと気づかない細部にもこだわりがあったように思う。『スノーピアサー』なんてのも格差社会を描いていたけど、むしろ直喩に近かったかもしれないし、今作ではそれが両家族の中の愛や生命力によって芸術的にメッセージ性を高めていたと言えば褒めすぎか・・・
ストーリー展開はコメディ色も強いのに、笑っていいのか悪いのか。素直に笑えない人は格差社会に問題意識を持ち始めている人であり、そんな社会問題もすっ飛ばしてある意味達観した人には十分笑えるのだろう。まずはWi-Fiが無いと生きていけないキム一家の様子で笑い、貧乏な割には全員スマホを持っている韓国事情もわかり、動画を見てピザ店の箱組立作業をするつつましさにも納得する。
それだけなら大多数がキム一家に同情するのだろうけど、ギウが家庭教師採用の際にわざわざ大学入学証書を偽造したり、妹の名前や経歴詐称、父親を運転手にするため脱ぎ捨てた下着で現運転手を解雇させたり、挙句の果ては長年勤めていた家政婦ムングァンを結核だと貶める行為によって、キム一家のダークサイドを見せる。せめて家政婦くらいは残しておけば、一緒にめでたく就職ということで落ち着いたはずである。しかし、高級住宅で暮らしてみたいがためのやり過ぎ感によってセレブ家庭の好感度と均衡がとれるのだと感じました。
しかし、格差社会の描写は“臭い”に始まり、“雨”をどうとらえるかで重く訴えかけてくる。雨はダソンの誕生日キャンプが中止をもたらすが、彼はむしろ楽しんでいて庭にテントを張ったりもするし、リビングから見る雨の庭園は富の象徴とも言うべき美しさ。しかし、町では洪水をもたらし、キムの半地下住居はひとたまりもない。汚水、瓦礫、パニック、天災も貧困層だけを狙っているかの描写だった。避難所の様子も日本を襲った災害を思い出さずにはいられなくなってくる。
そして“地下”。貧困層の半地下もそうだったけど、驚愕の完地下生活をしている描写。それも元の住人が北の核を恐れて作ったシェルターの忘れ物だったのだ。雨は上から落ちてきて下へと溜まる。そして汚いものは全て洗い流して最下層へ・・・
幸せな家族という視点で観れば、最初に給料をもらって焼き肉を食べているキム一家の喜びの表情もこの上ないものでした。格差の間には見えざる一線があり、見えざるヒエラルキーが存在しているのですが、この幸せそうな家族が虐げられることもないし、嫉妬から雇用者を憎むこともない、何とかして共存しよう努力しているのも微笑ましい。だが、手段に無理があったため、やがて阿鼻叫喚の地獄絵図を産むことにもなった。
計画するより無計画のほうが幸せ・・・だったかのような言葉も頷けるものの、キム父を演ずるソン・ガンホが放った言葉「計画がある」が何だったのか。まさかパクさんを殺すというわけじゃないだろうし、ちょっと引っ掛かります。地下から現れた化け物の臭いによって鼻をつまむパク。「一線を越えた!」。これを見たキム父が娘を刺されたこともあって殺害に至ったのだろう。娘が刺されたシーンには涙が止まらなかった・・・
【追記】2月10日、オスカー作品賞獲得記念でリピート
「是枝監督とは親しいんだよ」というポン・ジュノ監督の言葉にハッとした。序盤に出てくる便所コオロギを見て、書くことを忘れていたのに気づきました。ポン・ジュノ監督も『海街diary』をも観ていると思うのですが、なぜか是枝作品にもカマドウマ(便所コオロギ)が出ていました。こんなところにも接点があったのですね!!!
雨の日に現れた元家政婦。殴られたような跡も残っていたのですが、夫にどうした?と訊かれ「後で説明する」と言ってたのに結局言わなかった。1回目は気にならなかったのになぜだか理由が知りたくなった・・・桃アレルギーが悪化したのかなぁ・・・
上記「計画がある」というのは結局「無計画でいること」でした。スッキリ。
テントの子供がモールス信号を解読したのに何も行動を起こさなかったのは、多分、幽霊だと思ったからなのでしょうね・・・それしか考えられません。
あららーkossy さんに見つかってしまいましたね。誰にも発見されないようにこっそり投稿したんですが、数分後にイイね!が。(照れ笑)
是枝との類似点?
パク夫妻のソファーでのモロ愛撫にびっくりしましたが、そういえば「万引き家族」でも安藤サクラのフルヌードがありましたっけねー
そっちに気を取られてカマドウマには気がつかんかったです(笑)
yuriさん、詳細なコメントありがとうございます!
たしかにキム一家に感情移入できるかどうかという点も評価の分かれ目ですよね。
よく思い出してみると、俺は誰にも感情移入してなかったかもしれません。格差社会への憤りとか、キム一家に対して「そこまでしなくていいじゃん」といったことを考えながら観てました。
社会人になったばかりの頃に内職回りをして顧客に納品なんてこともやってたし、内職の斡旋なんてのもちょっとだけ経験しました。やっぱり、内職の方も上手い下手があるんですよね~。下手な人には仕事が回らなくなるし、上手な人のところにばかり頼んでしまう。といった思い出が・・・
モールス信号の件は、単に幽霊が怖かっただけかと見て取れたのですが、「助けて」とわかると、「あれ、人間だったのかな?」くらいにしか少年は感じなかったのでしょう。多分。
この映画の評価が分かれる理由の一つが、キム一家に対してどういう印象を持つか、なのかなと思いました。ピザの箱の作り方をスマホで見ていたシーン、あれは、内職を始めたものの、こんなのかったるい、手っ取り早く組み立てる方法はないかな、と検索して、それを見ていたのだと思いました。私は仕事の一環で化粧箱を組み立てていたので、あれが説明ビデオには見えなかったし、そもそも直接見本を見せた方が早いので。この人たちは楽して稼ぎたい人達だ、と思いました。
弟くんが信号をスルーした場面、あの子にとっては地下の他人なんてどうでもよく、信号を解読したあとは興味を失ったのだと思います。もっと大きい子ならば人道的に通報しただろうけど。富裕層の無意識の差別意識の象徴、と私は受け取りました。どっちもどっち、私は客観的に面白く観られました。
獲って欲しいと願ってましたが、まさか本当に獲るとは…!((( ;゚Д゚)))
さすがはポン・ジュノです(^^)
日本映画は本当に本当にもっともっと頑張れ!
きっと、マッコリをたくさん飲んでいるでしょう(^^)
コメントありがとうございます♪
オスカー、いよいよ一週間後ですね。(ちなみに明日はキネ旬ベストテンも発表で、こちらも気になりますが…)
最新の下馬評によると、『1917』と『パラサイト』の一騎討ちのようです。
おそらくオスカー会員にとっては『1917』の方が好みで分がありそうですが、
やはり自分としては、黒澤も成し得なかった『パラサイト』のアジア映画初の作品賞を!
bionさんのおっしゃるとおりで、悪人が1人もいないところがほんとに印象的でした。
鼻をつまむシーン。それまで、匂いを感じていても本人の前では話さなかった。でもキム父は、机の下で夫婦の会話を盗み聞きしていたし、タクシーで奥さんが窓を開けたことを知っていたし、息子が同じ匂いがする〜と言っていたから、敏感になっていた。地下から這い上がってきたあの人は風呂にも何日も入ってないだろうし、流血もしてるし、パクさんでなくても鼻をつまんでいたかもしれません。咄嗟に出た行動を見て、一線を超えてしまう。思わず声が漏れそうでした。
コメントありがとうございます。
この映画は凄すぎるにつきますね。本当の悪人が一人もいないのに人間の性をエグいくらい描ききってる。
それでいて、映画としてめちゃくちゃ面白い。
kossyさん、平和ボケ論議に〝参戦〟⁈
いただき、恐悦至極です。
最近知ったのですが、奨学金という名のローンで苦しむ若者を狙い、自衛隊に入れば住居費もかからず楽になれるぞ、という勧誘が本当にあるそうです。
若者不足に悩む国による経済的徴兵制という言葉が存在しているというわけです。この辺のことももっと勉強しなければ、と思っています。
若い人たちを応援するよりも食い物にする世の中は良くないと思うのです。
kossyさんへ
韓国映画は好きだし、ストーリーは新鮮だし、Bitter Endだし、好みの要素は揃っているんですが、なぜか心に刺さるもんが無くって。
韓国映画の面白さは、コテコテにせよ社会派にせよ、思いっきり振り切るところなんです、俺的には。地下室パート以降、思いっきり振り切ってくれたら最高だったのに! イ・ジョンウンは、今回も最高でしたw
こんにちは、確かに、強烈な印象の映画で僕も忘れられません。ところで、嫌韓の人は、批判も何も、そもそも韓国映画を観に行かないと思います(笑)。そんな了見の狭い人達(笑)。こんなに面白いし、考えさせられるのに…!