「『周囲には多少なりとも匂いに気を配ろうと思った』」パラサイト 半地下の家族 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
『周囲には多少なりとも匂いに気を配ろうと思った』
ご贔屓の監督最新作。前半はブラックコメディの様なテイストだが、両極化する格差と加速する金権・拝金主義、見棄てられ孤立化する核家族、経歴詐称・身元不明失踪者、大雨による自然災害等、現代が抱える社会問題が盛り込まれており、中盤以降一挙にストーリーが加速すると不穏な空気を残した儘、突如幕を閉じる。全体としては監督のキャリア初期の佳作『ほえる犬は噛まない('00)』に似た印象で、過不足感が無い反面、物語的に着地点を模索していた様な後味も残る。随所に監督独自のセンスフルでアーティスティックな画面が窺え、一筋縄ではいかない珍作と云えよう。65/100点。
・この物語のそもそものきっかけを作ったパク・ソジュンの“ミニョク”から託された盆石が重要なアイテムっぽく意味有り気に描かれていたが、何を意味する物だったのか、或いは何かの象徴だったのか今一つ判らなかった。恐らく作中内での扱われ方が中途半端に思えたからであろう。
・チャン・ヘジンの“キム・チョンスク”が元ハンマー投げのメダリストの設定だったが、“キム・キテク”役のソン・ガンホが水没する我家から大切な私物をピックアップする際、手にしてたメダルがそれであると思われる、そう云えば、ペ・ドゥナが演じた『グエムル -漢江の怪物-('06)』に登場する“パク”家の長女“ナムジュ”はアーチェリーの選手であり、矢が重要なアイテムを担っていた。
・道路以外はほぼ全てと云う大規模なオープンセットにて撮影は行われ、登場する“ナムグン・ヒョンジャ”なる建築家は架空だが、この豪邸は映画の為に一から建てられた。尚、撮影は77日間に亘り、総製作費は約130〜150億ウォン(11.8憶~13.6憶円)だと云われている。'19年6月24日に公開されたインドネシアでは、'19年7月28日の時点で、50万人以上の観客動員となり、韓国映画として過去最大となる興行収入を記録した。
・パク・ソダム演じる“キム・ギジョン”が偽造するチェ・ウシクの“キム・ギウ”の入学証明書等、大学関連の書類は監督の出身校である延世大学を基にしているらしい。亦、“キム”家が水没するシーンでは大量の泥パックを使い、水を濁らせ汚水に仕立てたと云う。
・豪邸の新しい所有者がドイツ人だとされているが、冷蔵庫に附けらているマグネットは、ベルンの旗、スイスの旗、カペル(ルツェルン)橋、ユングフラウ山名とスイスに由縁する物ばかりである。
・監督によると、本作の構想は『オクジャ/okja('17)』の準備をしていた'15年頃からあったらしいが、乗り気になれず遅れたと云う。その後、一念発起しハン・ジノンと共に約三箇月半でスクリプトを書き上げたらしい。尚、エンドクレジットで流れる「A Glass of Soju」と云うナンバーも監督の手によるもので、唄うのは“キム・ギウ”を演じたチェ・ウシクである。
・脚本を書き乍ら監督がイメージしたのは、“キム・キテク”に過去四度(『殺人の追憶('03)』、『グエムル -漢江の怪物-('06)』、『スノーピアサー('13)』、『オクジャ/okja('17)』)使ったソン・ガンホと“キム・ギウ”には同じく『オクジャ/okja』で一緒だったチェ・ウシクを最初にキャスティングしており、この二名のみ所謂“当て書”である。“パク・ヨンキョ”のチョ・ヨジョンは『情愛中毒('14)』の演技が監督のお眼鏡に叶い実現した。
・某サイトに載ってた評が本作を端的に語ってたので以下、引用──
> 或る瞬間から映画のジャンルが変わった。歴代級におもしろい映画。
> ポン・ジュノというジャンルだ。
> ホラー映画でもないのに、どうしてこんなに心臓がドキドキする?
> 不快で残忍な映画だった。
> 時間が経つ程、心苦しくなっていく。
> 家族悲喜劇の様に見えても、子供連れで見るのはお薦めしない。
> サイダーみたいにスッキリ爽快なのを期待してたけど、焼酎を三杯注がれた気分だった。一杯目は楽しく、二杯目はめまいがして、三杯目はとっても苦いネ。
> 映画と云っても、私には殆どドキュメンタリーに思えた。この映画を観てスタンディングオベーション出来るなんて、私は胸を押し潰されて、暫く立ち上がる事が出来無かった。