「怨嗟の円環」罪の声 nobさんの映画レビュー(感想・評価)
怨嗟の円環
この作品は日本現代史の一側面である。この円環は今なお途切れていないことに戦慄を覚えずにいられない。役者陣にとっても生傷であるかもしれないことを思えば、膨大なエネルギーが作品に込められているように思う。ヨークの町を最後の舞台に選んだのも歴史俯瞰につなげる意図があったのだろう。
■書き直し■
「怨嗟の円環」
この作品は日本現代史の一側面を捉えている。
現実に起こった事件をモチーフにしているが、事件構造は全くの架空である。
(『リアル』な表層に『バーチャル』な構造を埋め込み、『リアル』な現代史構造を表現して見せる)という『入れ子』構造が本作の鍵であり、成功している。
年嵩の役者陣にとっては尚疼く古傷であるかもしれないことを思えば、膨大なエネルギーが作中に込められているように思う。蛇足のようだが、これも『入れ子』と見れば、複次元的な『入れ子』が完成する。
その複雑な構造を持ってストレートなメッセージを直球で放り込むところに本作の魅力がある。原作は未見で恐縮だが、先ずは脚本の秀逸さを称賛したい。
作中、黒澤明『天国と地獄』への言及があるが… 深読みに誘われた。
作品の“ありよう“とて提示したのではあるまいか?
まさに“複眼“的な本作の特徴を思い、手前勝手に納得してしまった。
怨嗟の円環は断ち切ることができるのか?
最後の舞台となるヨークの町は、シェイクスピア史劇に象徴されるように、「繰り返された戦火」を想起させる。人間俯瞰につなげる構造的意図があったのだろう。そこで語られるメッセージに重さを与えている。
小栗旬の、“人間臭い“ 中に “青さ“ を持った芝居が良い。
星野源やその他のキャスティングも的を射ている。
本作が発するメッセージは是非、劇場で確認して頂きたい。
コロナ災下、目先の経済や衛生管理が大切であることには論を待たない。
しかし、私たちの“ありよう“を俯瞰的に再確認することもまた、大切なことではないだろうか?
本作のような力強い作品が公開されることを嬉しく思う。