「【点と点、80年代】」罪の声 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【点と点、80年代】
グリコ森永事件をモチーフにして、少しずつ真実に迫る謎解きを展開しながらも、どこかノスタルジックな感覚を覚える作品だ。
そういう意味で、80年代の雰囲気をよく伝えていると思うし、更に、子供の声を主要なファクターに据え、その子供たちの成長や運命を見つめる重厚な作品になっていたと思う。
80年代は、ある意味、混沌とした時代だった。
多くの謎を残し、この作品のモチーフになったグリコ森永事件もそうだが、70年代の学生運動の残り香もあちこちにあったような気がする。
バイトしていた都心繁華街の居酒屋の近くにあるバーのオーナーが、学生運動に傾倒した人物で、「腹腹時計」という爆弾の作り方を記載した地下雑誌を所有しているという噂を聞いたことがあった。
70年代の三菱重工ビル爆破事件の爆弾の作成工程を記したものだ。
あの居酒屋は、ビルを建て替えてまだ営業している。
今度、バーがどうなっているか探してみようと思う。
また、80年代は、金融市場が激変した時代でもあった。
為替のプラザ合意。
後半は、バブルに突き進んだ。
しかし、株式市場も、まだまだ未成熟で、仕手やインサイダーといった禁じ手に手を染める連中がいて、取り締まりも不十分な時代だった。
そして、確実に儲かる話というのもあって、株絡みのうまい話に政治家が擦り寄って来ていたというのは、リクルート事件でも明らかになったところだ。
企業がらみで言えば、佐川急便事件で、政治家の金丸信が90年代初めに逮捕起訴されたが、実際の贈賄が行われたのは80年代だった。
そんなことを考えると、この作品で、株の空売りの資金の金主が政治家と推測される場面があるが、80年代であれば、ありそうな話だとさえ思えてくる。
こうして、この作品では、時代の雰囲気を表す特徴を点と点で結び、僕達のノスタルジーが刺激されるのだ。
そして、子供の声。
僕達は、キツネ目の男の似顔絵や、人を食ったような脅迫文、次から次に標的にされる食品関連企業に注目しがちだったように思う。
でも、声を利用された子供たちの、その後の運命など考えたことはなかったのではないか。
どのように声は調達されたのか。
この劇場型とも言われる事件の闇の深さを改めて思い知る。
グリコ森永事件では、当初、録音された声の主は、30代の女性と言われていた。
しかし、再鑑定で、これは10代のものとされ、他に幼い2人ないしは3人の男の子の声があったと報じられていた。
幼い子は記憶も確かに曖昧かもしれない。
だが、10代と思われる女の子は、記憶も鮮明なはずだ。
彼女は、何を感じていたのだろうか。
今も、怯えながら生きてるのだろうか。
興味というより、胸が苦しくなる。
ストーリーは、子供たちのその後の運命にフォーカスし、時代や時代の雰囲気に翻弄された周りの人を照らしながら、声の主たち…といっても残されたのは2人だけだが、彼らを罪の意識から解放していく。
阿久津と曽根が繋がった。
そして、京都のテーラーとヨークのブックストアの店構えがとても似ていたのも、点と点が繋がるような気がした。
この作品では、事件がさまざまな事柄や人と繋がっていた。
実際のグリコ森永事件はどうなのか。
一体、社会の何とか繋がっていたのか。
改めて興味が湧く。
しかし、子供のことを考えると、実は謎のままの方が良いような気にもなる。
ただ、一方で、キツネ目の男をすんでのところで取り逃したとして左遷された警察幹部は自死を選択した。
なかには、事件が永遠に終わらない人もいるのだ。
グリコ森永事件とは一体何だったのか。
僕達は改めて考えることで、日本の社会の歪んだ暗い部分を心にに留め置くことになる。
ワンコさん、毎度どうもです。
たしかにノスタルジー感じました。
特にラジカセ・・・まさか自分が持っていたものと同じものだとは!
あの機種は多分かなり売れてたんです。友人も同じもの持ってたし。ただし、70年代初めのラジカセだし、高価なタイプライターと比べると古いのかなぁ。
ビル爆破とかバーとかって、「テロリストのパラソル」を思い出します。