ペット・セメタリー : 特集
スティーブン・キングの“最大の問題作” 封印された“禁忌のホラー”
最愛の娘が死んだ… しかし、あの土地に“埋めれば”生き返る――
最も恐ろしく、最も切なく、最も悲哀に満ち、最も秘密を抱えた一作
2020年1月17日に公開される「ペット・セメタリー」は、あまりにも恐ろしく、あまりにも切ないホラーである。新たな設定で再映画化している。
原作は「IT イット」「シャイニング」などで知られる、世界最高峰のモダンホラー作家スティーブン・キングによる小説。この作品、キングが脱稿させた直後、机の引き出しの奥深くに封印した“禁忌のホラー”でもある。なぜ、彼は発表を忌避したのか。人間の精神に宿る“潜在的な恐怖”に迫ったストーリーを語るとともに、その理由を紐解いていこう。
【最も禁忌】キング史上、最大の問題作 その理由とは――
その土地は、死者を生き返らせる 決して、足を踏み入れてはならない…
医師のルイスは、家族とともにメイン州の田舎町に引っ越してきた。新居の目の前はトラックが猛スピードで通り過ぎる幹線道路であり、裏には動物の墓地“ペット・セメタリー”があった。
ある日、飼い猫が事故で死んでしまった。ルイスは隣に住む老人ジャドとともに、墓地の“さらに奥の森”に埋葬する。翌日、その猫がひょっこり帰ってくる。穏やかだった性格を、狂暴に豹変させて――。
・埋めれば、死者が生き返る… そこは悪霊が住む森だった
数日後、庭先でのかくれんぼの最中、娘のエリーが道路へ飛び出した。トラックが、こちらへ向かってきている。急ハンドルを切る運転手。横転するトラック。見開かれる少女の瞳。音が消える。母親の悲鳴が、青い空へ吸い込まれていった。
悲しみに暮れる夫婦。娘の亡骸を抱えたルイスの足は、あの森へと向かっていく。
森は、先住民の間に伝わる悪霊“ウェンディゴ”が棲みつく禁断の土地。ジャドはルイスを神妙に諭す。「死なせてやれ。時には死のほうがいい」。しかし……禁忌の行動の代償は、想像を絶する惨劇だった。
・「IT」「シャイニング」のキングが、完成直後に封印した禁断の小説
原作「ペット・セマタリー」は80年に完成し、83年に出版された。キング最大のヒット作(当時)となったが、本人はそもそも発表することを忌避していた作品だ。原稿の最後の一文にピリオドを打ってからおよそ3年間、引き出しの奥にしまい込んでいたのだ。
キングは、一言「恐ろしすぎる」と語ったという(具体的な理由は後述)。妻タビサの熱心な説得により出版にいたったが、この痛切なる物語を備えた小説は、やがて“最大の問題作”と称されるようになった。
・11歳の天才女優の出現 娘役ジェテ・ローレンス“覚醒の熱演”に注目
原作や89年版「ペット・セメタリー」のファンにとって、本作にはいくつかの驚くべき変更が加えられている。最たる例は、悲劇の中心人物が2歳の弟ゲージではなく、8歳の姉エリーである点だ。しかしこれは改悪ではなく、キング自身も「小さい弟より、エリーの方が(物語として)優れている」と称賛の言葉を寄せている。好奇心旺盛で、豊かなコミュニケーションがとれるエリーが中心になることで、“死”というテーマをより深い次元で表現できていると示唆した。
エリーに扮したジェテ・ローレンスの熱演も、衝撃的の一言に尽き、物語の前半と後半で狂気的に豹変する。撮影当時11歳、その“クリエイティブ・ジャンプ”ともいえる飛距離たるや、見ていて目が覚める思いだった。「エスター」「呪怨」など、子役の怪演が印象的な作品は多いが、なかでも本作は鮮烈なインパクトを残している。
【最も切ない】もしも愛する人を、生き返らせることができるなら――
キングの感傷が込められた、父と娘をめぐるエモーショナルな物語
なぜキングはこの原作を封印したか。それは、彼自身の最も私的な感傷が刻み付けられていたからだ。
執筆時、キングはメイン州の大学で講師を務め、オーリントンという小さな町で暮らしていた。家は車通りの多い道路に面し、裏にはペット用の墓地があった。ある日飼い猫のスマッキーが、道路で事故にあい亡くなった。
キングはこう話す。「超常現象が起こる前までの物語は、すべて実際に起こったことだ」。83年、2歳の息子オーウェンが、同じ道路でトラックに轢かれそうになった。キングが彼の体をつかみ最悪の事態は回避されたが、当時を回顧し「あと5秒遅かったら、子どもを1人失っていた」と明かしている。
「この本には悲しみがあふれている。つらくなるほどにね」。キングは実際に体験した感傷を、この物語に込めた。だからこそ、本作には「フィクションだ」と笑い飛ばせない切実さが潜んでいる。そして同様に、だからこそ、この親娘の運命をまるで我が身に起こったことのように感じ、涙を禁じ得ないのだ。
娘にもう一度会いたい。そう思うのは悪いことだろうか? 子を持つ親ならば、ルイスの選択に強い共感を覚えるだろう。
キングのオフィスには、思い入れの深い記念品として「シャイニング」の“REDRUM”の張り紙、「グリーンマイル」のディレクターズチェア、「ペット・セメタリー(1989)」のラグのみが長らく置かれていた。自身の禁忌であると同時に、我が子のような愛着も抱くという、矛盾が同居した味わい深いエピソードとして記憶している。(キングの発言などは一部、19年3月29日のEntertainment Weeklyより引用)
【最も恐ろしい】試写会を実施 この冬のキング映画で、一番“怖い”!
コアなホラーファンも戦慄「良い意味で、もう次は見たくない」
ホラージャンルに特化したVODサービス「OSOREZONE」にて限定試写会を行い、コアなホラーファンに本作を鑑賞してもらった。飛び出してきたのは、以下のような“恐怖の感想”だった。
・「死がすぐそこにある怖さ……父親を責められない」・「死の概念や倫理観を逆撫でしてくる」・「スティーブン・キング作品らしく、人の心の弱さやトラウマをいかした恐怖が描かれていた」・「怖いだけでなく、死や人の悲しみについて考えさせられる」・「ホラーの“良いところ”が全部詰まっていて、最高に楽しかった」・「良い意味で、もう次は見たくない」・「キング作品の中では最高のリメイク」・「ジットリと湿ったイメージのホラー。狂っていく父親が恐かった」 アンケートをとると、観客の多くは19年公開のホラー映画では「IT イット THE END “それ”が見えたら、終わり。」「ドクター・スリープ」「アス」「サスペリア」などを鑑賞していた。なかでも
さらに旧作ファンからは、こんな声が上がった。