「かつてビデオテープで観た青春」HOT SUMMER NIGHTS ホット・サマー・ナイツ 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
かつてビデオテープで観た青春
オープニングタイトルもエンドクレジットも、わざと古いビデオテープの画質に落としてある。なるほど確かにこの映画は、かつてビデオテープで観た青春映画のようだと思った。貶しているわけではない。80年代後半から90年代初頭にかけての空気感や価値観が、今まさにそこにあるような気にさせてくれる、そんな錯覚を覚えた。すべてがイケイケ(死語)で、キラキラというよりどこかギラギラしていたあの時代のヤンチャな感じ。
私自身、その時代を知っていると言えるわけではないのだけれど、それこそ昔ビデオテープで観た映画の中に、こんな世界があったような気がするし、昔読んだ漫画にも、こんな世界があったような気がする。ジョン・ヒューズとか「ホットロード」とか。爽やかで健全なだけの”アオハル”じゃなくて、もっとヒリヒリと痛くてジリジリと灼けるような、土臭い"青春"ってやつ。
正直なところでいえば、この映画の演出スタイルは、無理やりカルト映画になろうとするような気負いが煩く感じられる部分があり、カルト映画のなり損ないにも思えたのだけれど、ただ物語が進んで行くにつれ、あの時代の痛むような"青春"は確かにこんな風に喧しくて、ポップミュージックが耳に纏わりついて、無理やり必死で粋がるようなものだったかもしれないと思えてきた。そうやって粋がった演出が、粋がった若者の青春にはピッタリだったかもしれない、と。作品としては文化的というでも芸術的というでもないかもしれないけれど、なぜか身に覚えのない郷愁をくすぐってくる。
出来るならこの映画はビデオテープで観たい、と思った。レンタルビデオ店の棚に並ぶ、色褪せたパッケージの青春映画みたいだ。友達が兄貴に内緒で持ってきた漫画本みたいだ。もちろん、褒め言葉である。