劇場公開日 2019年11月8日

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「新手の人間模様ファンタジー」ひとよ kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5新手の人間模様ファンタジー

2019年12月14日
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鑑賞方法:映画館

予想したほど悲痛な話ではなかった。

タクシー会社が舞台なので、傑作「月はどっちに出ている」を連想。
地方の零細タクシー会社には訳アリの人が身を寄せるものと、相場は決まっているのだろうか。
「友罪」でも、息子が起こした事故の贖罪に縛られている佐藤浩市がタクシー運転手だった。

この映画は家族再生の物語なのかもしれないが、シチュエーションが特異なので、母親にも子供たちにも共感は難しい。
とは言え、母親に対する子供たちの三者三様の感情は、あり得るかなと思わせるものはあった。

全体的にリアリティーに欠けるなと思ったら、舞台の戯曲が原作だったのですね。
タクシー会社の面々もキャラクターが極端だし、「15年後に帰ってくる」と言ったから出所しても15年になるまで放浪してた母親とか、なんだか新手のファンタジーのようだった。
母親田中裕子の行動が、いちいち大胆でおかしい。
あれだけのことを起こして「誇らしい」という自信が揺るがない強さは、母であり続けようとする決意の強さだ。
タクシー無線を使ったエピソードで、そう言えば昔はタクシーに乗っていると他の運転手と事務所の会話が聞こえていたなぁと、懐かしさを感じた。
貼り紙の嫌がらせも前時代的で、昭和感たっぷりだった。
それにしても、人の不幸が嬉しい屈折した人間は現にいる。むしろ最近は増えているか。

次男の佐藤健が、父親の暴力にはただ耐えてさえいればよかったのだと言う。
だが、男の子はやがて男となり、父親は老いていく。
体力が逆転したとき、息子が父親を殺していたかも知れない。
殺人者の子と言われてまともな生活ができなくても、暴力による拘束からは解放された。自ら殺人者となることと、どちらが不幸だっただろうか。
もしかしたら、長年の暴力で抵抗する気力さえ奪われて、自分の意思ではなにもできない大人になっていたかも知れない。
いや、父親の暴力が加速して殺されていたかもしれない。

佐々木蔵之介の暴走劇がこの子供たちに何をもたらしたのからは分からないが、結果として次男は母親を受け入れた様だ。
それはそれで、大団円として良い気持ちで観終えることができた。
黙って空を見上げる母親は、何を思っていたのだろうか。

本作は、松岡茉優と佐藤健が名だたる演技陣を相手どって、見事。
佐藤健演じる次男は、終始一貫したキャラクターだったが、松岡茉優演じる娘は物語の序盤ではアバズレっぽく描かれていたのに、母親の帰還後は少し変わって母親を慕う娘になる。
母親の寝床に甘えて入ってくるところは、「万引き家族」で偽装祖母の樹木希林に甘える演技を思い出させたが、こういう演技に彼女の魅力が一番現れる。

最近ハイスピードで作品を発表している白石和彌監督だが、多作家の某監督のように質より量に陥らないことを願うばかり。

kazz
kossyさんのコメント
2019年12月14日

共感ありがとうございます!
たしかに年3本ペースですもんね。ちょっと心配になりますね~
三池監督みたいにアニメとかコミック原作の映画化に手をつけなければ大丈夫かと思いますが・・・w

kossy